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【仲間関係のなかで育つ子どもの社会性】 第1回 親によるピアマネージメントの提案

要旨:

本報告は、これから数回にわたって紹介する子どもの仲間関係とその発達への関わりについての第1報である。子どもが人と関わる力は、生来的にもつ気質や親の養育による影響のほかに、幼い頃からの仲間関係のなかで育まれていく。今回は、子どもの社会的スキルの発達にとって、仲間関係がどのような意義をもつかについて考察した。また、少子化社会である現代では、大人が子どもの仲間づくりを意識することが重要であるとの提案から、親によるピアマネージメントについて紹介する。
1.はじめに

近年、各種メディアの報道を通じて、人との関わり方が苦手な青少年の話題をよく見聞きする。人との衝突をうまく解決できず衝動的に応じてしまう、相手の立場に立って考えることが難しい、自分の考えを積極的に相手に伝えられないなど、子どもの対人関係を危惧する意見は様々である。人と関わる力、すなわち社会性の発達は、子どもが生来的に持つ気質や親の養育の影響もあるが、幼い頃からの仲間と関わった経験の質に負うところが大きい。しかも、子どもが学齢期に達し、仲間と過ごす時間が多くなるにつれて、クラスメイトや友人から受ける影響は大きくなっていく(Harris, 1995)。

子ども期の仲間との経験は、子どもの発達にどのような影響を与えるのか。これから数回にわたり、具体的なトピックをあげながら、発達心理学の知見をもとに論じていく。今回は、幼稚園から小学校にかけての仲間関係の様子と、それが社会性の発達にどのように関わるのかを概説し、その関係性を支えるために親にできることについて考えてみたい。



2.いざこざから学ぶ

幼稚園や保育園で、子どもたちの様子を3~4歳頃から観察していると、彼らが遊びを通して徐々に仲間関係を発達させていくのがよくわかる。入園して間もない頃は、平行遊びといって、お絵かきや砂場遊び、おもちゃなど遊びたい内容が同じ子どもたちが同じ場所に集まり、とくに関わり合うことなくそれぞれで楽しんでいることが多い。そのうち、近くにいる仲間の遊びに興味を持ち、同じことをしたがることで関わり合いが増えていく。しかし、年少の頃は自己中心的であるため、場所を占領したり、道具やおもちゃを独り占めにしたり、奪い取ろうとしていざこざが起きることが多い。おもちゃを奪い取られた側はといえば、反撃する、先生に言いつける、その場で泣くなどがほとんどである(斉藤,1986)。

仲間とのいざこざは、遊びたいことも実現できないし、先生にも怒られてしまうので、子どもたちにとってけっして楽しい経験ではない。年少から年中、年長にかけて、子どもたちは、いざこざをより建設的に解消するために、遊ぶ場所を分けたり、おもちゃを順番に使う約束をしたりするなど協力的な態度をとるようになっていく。このように、子どもたちは、遊びのなかで起こるいざこざを通じて、より良い対処を模索する過程から、我慢や協調性を学んでいくと考えられる(丸山,1999)。

子どもたち皆が仲良くして欲しいという気持ちは、親や教師に共通する思いである。しかし、大人が彼らの起こすいざこざを先回りして干渉し過ぎてしまうと、子ども同士で社会性を学ぶ機会は失われてしまう。もちろん、大怪我などにつながるいざこざは介入しなければならないが、それ以外に関しては、子どもたちが自分たちで解決する時間を与えて欲しいものである。


3.ギャングエイジの集団活動

小学校に入学すると、子どもたちは規律正しい集団生活を送るようになる。学校は、子どもが道徳的に振る舞い、社会的ルールに基づき行動することを教えようとする。子どもたちは、こうした学校での教えを受け入れながらも、気の合う複数の仲間と個人的な集団を形成し、彼らが独自に設けたルールに基づき行動するようになっていく。この傾向は、小学校の中高学年の頃、いわゆるギャングエイジ(徒党を組む年齢, Hurlock, 1964)の時期に顕著である。子どもたちは集団の仲間と一緒に、ゲームやスポーツで遊ぶ際のルールや、集団の仲間であるための条件(秘密を共有する、約束を守る、いたずらなどの悪いことも一緒にするなど)をつくりだす(Newcomb & Bagwell, 1995)。ルールや条件を守らず自分勝手に振舞っていると、しばらく仲間と一緒に遊べなかったり、ついには集団に入れてもらえなくなったりするなど手厳しい結果が待っている。

こうした経験は、子どもたちが自分の行動や感情をコントロールしなくては、と切実に反省し、実感するのに十分すぎるほどつらいものである。また、ギャングエイジ期の集団は、固定されたメンバーで長続きするのも特徴である。子どもたちは、長く付き合うほどに、お互いの性格や得手不得手を知り認め合うことができる。世の中には様々なタイプの人が存在することを知れば、他者を広く受け入れられることができるようになるだろう。そればかりか、メンバーから受容され認められることで、自分の個性やその良さに気づくこともできるのである。

しかし、この時期の集団活動が、子どもにとって良いことばかりではないことも事実である。例えば、集団であるからこそ、いたずらが度を越えてしまい、暴力的で破壊的な内容になってしまうことがある。また、学校やクラスのなかに複数の集団が存在すると、多人数グループから少人数グループや個人に向けられたいじめが生じることもある。これらの問題は、子どもの反社会的な行動を助長してしまったり、子どもに仲間への不信感や孤立感を植え付けてしまったりする可能性があるが、大人の目を盗んだ場所で起きることが多いので気づくのは難しい。親や教師には、普段から子どもの仲間づきあいに関心を持ち、その様子を把握することで、子どもたちの健やかな社会性の発達を見守る姿勢が求められる。


4.少子化社会で親にできること

以上に紹介してきたように、子どもは幼少期の頃から、仲間関係のなかでもまれることによって社会性を育んでいくと考えられる。しかし、子どもの周囲に肝心な仲間がいなければ、その大切な機会を得ることはできない。少子化社会である現代では、かつてのように近所の子どもたちが集まり、自然発生的に集団が形成されることは少なくなった。そのため、これからの親や教師には、子どもたちが自由に触れ合える機会を提供する意識がより求められていると言えよう。実際に、遠方からの通学児童が集まる小学校では、放課後に学校を開放し、子どもが仲間と自由に遊ぶ場所と時間を提供する試みも見られる。こうして子どもの仲間関係を斡旋したり、仲間の情報を集めたりすることは、ピアマネージメント(peer management)と呼ばれ(Tilton-Weaver & Galambos, 2003:酒井2010)、わが国ではまだ馴染みが薄い概念だが、親の養育態度の一形態として最近になり、学術的にも注目されてきている。

筆者は、ベネッセ次世代育成研究所との共同研究において、初めて子育てをする288家庭の親を対象に、妊娠期から子どもが2歳になるまでの縦断的な調査を実施している。 この調査では、母親と父親の双方に、「子どもが家庭内外で友だちと遊ぶ場を設定した(親の友人とその子どもを家に呼んだり、一緒に外出したりなど)」や「子どもが友だちをつくれるような場所(公園、児童館など)に連れて行った」などのピアマネージメント経験を月平均の頻度で尋ねた。子どもが2歳のときの母親の回答結果を見てみると、前者の質問について月に3~4回以上実施したと回答したのが59.4%、後者の質問について同様な頻度で回答したのが73.6%であり、比較的多くの母親がピアマネージメントを実践していた。

一方、父親に関しても同様な頻度を基準に見てみると、前者の質問については15.3%が、後者の質問については31.2%が該当していた。母親の頻度に比べれば少ないが、約3割の父親が、少なくとも週に1度は子どもが仲間と出会える場所に連れて行っていることになる。また、先に実施した子どもが1歳代のときのピアマネージメントに関わる要因の検討(酒井他,2010)では、父親自身に子育てのことを相談できる仲間がいることがピアマネージメントの実践につながるという結果が得られており、親自身に子育て仲間がいるかどうかが大きく関わっていると考えることができよう。母親にとっての "ママ友"の重要性はよく言われるところであるが、父親が子育てに参加し、子どもとうまく関わっていく場合にも "パパ友"の存在はやはり重要なのである。

 
母親
父親
子どもが家庭内外で友だちと遊ぶ場を提供した(3~4回/月)
(親の友人とその子どもを家に呼んだり、一緒に外出したりなど)
59.4%
15.3%
子どもが友だちをつくれるような場所(公園、児童館など)に連れて行った(3~4回/月)
73.6%
31.2%

さて、政府や企業が実施する子育てに関する調査を見ると、父親の子育てで期待されるもののトップは子どもと遊ぶことである。そうであれば、父親には、天気の良い休日に、ぜひ子どもを同い年ぐらいの子どもがいる場所に連れて行って、一緒に遊ばせてあげてほしい。子どもも仲間と遊んで楽しいだろうし、父親も、わが子が仲間と触れ合い、普段は気づかなかった一面を見せてくれることで、きっとうれしい光景を見ることができるに違いない。

第1回 妊娠出産子育て基本調査


参考文献:

Harris, J.R. 1995 Where is the child's environment? A group socialization theory of development. Psychological Review, 102, 458-489.

斎藤こずゑ, 1986 仲間関係 武藤隆・斉藤こずゑ・内田伸子著 子ども時代を豊かに(pp.59-111) 学文社.

丸山愛子1999 対人葛藤場面における幼児の社会的認知と社会的問題解決方略に関する発達的研究 教育心理学研究,47,451-461.

Hurlock, E.B. 1964 Child Development. New York:McGraw-Hill.

Newcomb,A.F. & Bagwell, C.L. 1995 Children's friendship relations: A meta-analytic review. Psychological Bulletin, 117, 306-347.

Tilton-Weaver, L.C. & Galambos, N.L. 2003 Adolescent's characteristics and parents' beliefs as predictors of parentsapos: peer management behaviors. Journal of Research on Adolescence, 13, 269-300.

酒井厚 2010 母親による乳幼児のピア・マネージメントとその関連要因-母親の精神的健康とソーシャル・サポートの観点から- 山梨大学教育人間科学部紀要, 11, 233-239.

酒井厚・菅原ますみ・松本聡子・後藤憲子・高岡純子・田村徳子 2010 妊娠出産子育て基本調査:はじめての子を持つ夫婦が妊娠期から育児期にペアレンティングをどう発達させていくか-人的サポートの推移 日本発達心理学会第21回大会論文集 pp.8~9

筆者プロフィール
report_sakai_atsushi.jpg 酒井 厚(山梨大学教育人間科学部准教授)

早稲田大学人間科学部、同大学人間科学研究科満期退学後、早稲田大学において博士(人間科学)を取得。国立精神・神経センター精神保健研究所を経て、現在は山梨大学教育人間科学部准教授。主著に『対人的信頼感の発達:児童期から青年期へ』(川島書店)、『ダニーディン 子どもの健康と発達に関する長期追跡研究-ニュージーランドの1000人・20年にわたる調査から-』(翻訳,明石書店)、『Interpersonal trust during childhood and adolescence』(共著,Cambridge University Press)などがある。
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