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情報技術と教育-香港の小学校を訪問して-

要旨:

香港にあるPo Leung Kuk Caster Primary Schoolでの教育におけるIT活用について、私が最も強い印象を受けたのは教授法の転換であった。教授法において最も顕著に変わったのは、生徒と教職員の役割である。これまでの学習モデルでは、知識や技術を持っているのは教職員であり、それを生徒に対して伝えてきた。ここではITは単にその一方通行の情報提供を容易にする役目を担っているにすぎない。新しい教授法では、生徒と教職員は新しい事柄を一緒に学んでいく協力者とみなされる。ITは、様々な情報源を得るための、また、協力して知識を構築していくためのコミュニケーションの道具として活用される。
2003年12月2日、私は香港にあるPo Leung Kuk Caster Primary School(保良局世徳小学校)を訪れた。この訪問は、コンピュータと教育についての国際協議会が主催したものであり、この学校がどのように情報技術(IT)を活用しているかを参加者に紹介するのが主な趣旨だった。

 

Po Leung Kuk Caster Primary Schoolは、香港の郊外に位置する公立学校である。公園や緑が点在する高層アパートの建物群に囲まれて建っており、ほとんどの生徒はそこから通学している。7階建ての校舎やその他の設備なども比較的新しい。教室は、学年が上がるごとに1年生が1階、2年生が2階、というように配置されており、職員室は最上階にある。

見学は最上階から階下に向かってスタートした。職員室の中に入ると、教職員達の机の配置に目を引かれた。学年ごとに4人の各クラス担任が向かい合って座れるように机が4分割されていた。机を隔てている低い仕切りによって、教職員達のプライバシーが守られつつ、情報交換や、本や資料などのやりとりができる。今回の訪問では、このような細かい部分での発見が多かった。

この学校でITがどのように取り入れられ、活用されているかについて、3つの注目すべき側面がある。一つは設備や施設についてである。2つの教室以外すべての教室から高速インターネット接続ができ、プロジェクター(コンピュータなどの画面をスクリーンに投影できる映写機)が設置されていた。したがって、どの教職員も教科を問わず、ウェブ上の情報源を利用したり、PowerPointで作った資料を使うことができるようになっていた。また、各教室には生徒がノートパソコンを接続するための端子が、机にではなく教室の壁伝いに設備されていた。他にも、スキャナーやプリンターなどが接続されたコンピュータが40から50台くらい設置されたコンピュータ室も2部屋あった。一つは、コンピュータが何列にも並んでいる見慣れた配置の部屋で、もう一つはコンピュータが3つか4つずつ集まって配置されており、生徒がグループで共同作業などができるような部屋だった。

また、Po Leung Kuk Caster Primary Schoolは"eSchool Bag"という香港の試験事業にも携わっている。eSchool Bagとは、生徒達が校区内のコンピュータ・ネットワークやインターネットに接続できるノートパソコンやPDAの入った電子カバンである。eSchool Bagを持つことによって、生徒達は校内や公園など、どこにいても情報を得たり、友達と連絡をとることができる。このような機器は相互学習や共同作業の促進に一役買っている。

この学校での教育におけるIT活用について、もう一つ注目すべき側面は、ITを全くの道具とみなす姿勢である。教育の中にコンピュータを取り入れる、つまり、カリキュラムのなかで効率的にコンピュータを活用するためには、専門ソフトウェア(時にはハードウェア)を開発する必要があるという考え方がある。例えば、生徒の数学の力を伸ばす専門ソフトウェアや、歴史を学ぶのに役立つ様々なメディアを使ったシミュレーションなどが挙げられるが、往々にしてとられがちなこのようなアプローチを考えれば、IT を単に教育の道具としてとらえるこの学校の姿勢の斬新さが理解できるであろう。Po Leung Kuk Caster Primary Schoolは、こうしたアプローチを、多大な労力を要する上に、教職員達も専門技術を身に付けなければならず、その上応用範囲が狭く、限定的すぎると考える。したがって、授業や学習の補助として使われているソフトウェアは、今のところウェブブラウザ、検索エンジン、プレゼンテーション用のPowerPointといった一般的なものである。一般的なソフトウェアを使うことによってこそ、生徒達は、技術を習得し、学校や授業の枠を超えて、IT時代に立ち向かっていくより良い準備ができるのである。

しかしながら、この学校での教育におけるIT活用について、私が最も強い印象を受けたのは教授法の転換であった。訪問の最後に5年生と6年生の生徒数人から、学習にITが取り入れられたことによる影響についての感想を聞いた。また、以前と今の学習の様子について6年生の生徒がプレゼンテーションをしてくれた。教授法において最も顕著に変わったのは、生徒と教職員の役割である。これまでの学習モデルでは、知識や技術を持っているのは教職員であり、それを生徒に対して何らかのかたちで伝えてきた。ここではITは単にその一方通行の情報提供を容易にする役目を担っているにすぎない。新しい教授法では、生徒と教職員は新しい事柄を一緒に学んでいく協力者とみなされる。そして、ITは、様々な情報源(例えばインターネットを通して)を得るための、また、協力して知識を構築していくためのコミュニケーションの道具として活用される。このような教授法の転換による影響はすでに生徒達の熱意に反映されていた。その証拠に、生徒達の表情は明るく、学習意欲に満ちあふれた様子で、自分達の体験を私達に話してくれた。

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