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研究室

119番通報時の口頭指導による応急手当

中村徳子(京都府認定 NPO法人 乳幼児の救急法を学ぶ会 理事)

2014年1月17日掲載

要旨:

119番通報時の市民への口頭指導は、救急車到着前に傷病者へのいち早い応急手当実施、救命率向上に有用と平成11年から実施されるようになった。しかし、「口頭指導」の存在を知らない市民が多いことがわかった。市民への口頭指導周知は、バイスタンダー *1の増加にもつながるが、バイスタンダーの心のケアには長年、あまり目が向けられていなかった。バイスタンダーの増加とともに、善意の救助者の苦しみも増えることは絶対にあってはならない。それらのことから子どもたちに身近な人々(保育関係者、幼稚園職員、養護教諭、保健所関係者)を対象に、口頭指導の有用性、保護者への事故予防情報などの提供、心のケア希望の有無などについて調査をした。

キーワード:
バイスタンダーの心のサポート, 口頭指導, 応急手当普及, 救命率向上
はじめに

NPO法人乳幼児の救急法を学ぶ会は、かけがえのない子どもたちの命を守るために、予防できる事、万一の時に、救急車が到着するまでの間にしなければならない事などを学び合うために活動をしてきた。

2003年より行っている応急手当・事故防止ビデオの普及活動をしていく中で、応急手当に習熟している養護教諭から、突然の呼吸停止などの重篤な状況を経験したことがないので対応ができるかどうか、とても不安だという声を多く聞いた。

少しでも養護教諭の不安が減ることを願い、119番通報時に対応方法がわからなければ司令課より口頭指導をしてもらえることを伝えてみた。口頭指導を知らない人は多かったが、「口頭指導を知っていたらとても心強い」「気持ちが楽になった」と大変喜ばれたことが、口頭指導周知の効果の大きさを知るきっかけとなった。

2009年、救急医療関係者購読誌に温泉旅館における救命に関するアンケート調査を消防職員が寄稿した 1)。その中で「宿泊客が有事の際、適切なCPR(心肺蘇生)を実施する自信がある件数は19%にとどまったが、口頭指導があれば57%が自信があると回答した。」と書かれていた。口頭指導を知らない人が70%、さらに93%の人が普通救命講習を受講していなかった中で、口頭指導を知った直後に自信があると答えた人が3倍となったことにとても驚いた。

調査報告のまとめに、「口頭指導の認知度が低いにもかかわらず、口頭指導があれば適切なCPRを実施する自信があるという結果から、応急手当普及啓発のみならず、口頭指導の存在をも周知させる必要があるのではなかろうかと、再認識させられました。」と書かれていたことから、口頭指導を知らない市民が多いことを再確認できた。同時に市民への口頭指導周知はバイスタンダーの増加につながると確信した。

わが子の突然の事故や緊急時の対応に不安を持っている子育て中の家族にとっても、口頭指導などの情報提供は、大きな安心感となるだけではなく、子どもの突然の事故などの予防、緊急時のいち早い119番通報により、大切な命、健康を更に守れるかもしれないと思った。

そこで、子どもと関わる職業の人たちを通じて、口頭指導の情報提供とあわせて、突然の事故、SIDS予防情報(保健所・保育関係者)周知も、乳幼児の事故の多い家庭への効果が期待されるのではないかと、消防職員のアンケート内容を参考にして調査を始めた。

また、以前読んだ論文から、バイスタンダーの心のケアへの取り組みも重要と思っていた 2)。この問題は表に出にくいが、バイスタンダーの増加と比例して、苦しむ善意の市民が増えていくことは絶対にあってはならない。そのためバイスタンダーの心のケアが必要とされているかどうかも合せて調査をした。

アンケート結果

2010年~2011年にかけて関係者の方々の協力を通じて、保健所・保育関係者・幼稚園職員・養護教諭629人から回答を得た。(図1)

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図1 職業別人数の内訳


① 約55%が119番通報を経験していた(図2)。

職種別では、養護教諭が89%と突出していた。

その理由として、先に養護教諭を呼んでから119番通報することが多いためかもしれない。いち早い119番通報は口頭指導が更に活かされるだけでなく、救急隊のより早い到着にもつながる。そのためには養護教諭を呼ぶ前に119番通報することを、普段から教職員で確認し合っておくことも必要なことと思った。

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図2 119番通報経験の有無


② できない、わからないなど緊急時の対応に不安をもっている人が多いことが分かった(図3)。

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図3 緊急時、応急手当(誤飲、出血、熱傷、心肺停止などの処置)を実施できると思うか?


③ 知らない人が40%近くいた(図4)。

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図4 119番通報時に対応方法がわからない場合、口頭指導してもらえることを知っていたか?


④ ②で、できない、わからないと答えた人が大幅に減り、できると答えた人が約2倍になったことから、口頭指導は応急手当実施への大きな勇気につながっていることがわかった(図5)。

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図5 口頭指導があれば応急手当を実施できると思うか?

職業別でみると、保育関係者の中でも保育士(186人)は②の約4.7倍となり、倍率が一番高かった。幼稚園職員も2.7倍と、保育士に次いで高かった。乳幼児保育に携わっている保育士、幼稚園職員は、緊急時の対応への大きな不安を抱えていることがわかった。突然死の統計から、保育園で起きた突然死の60%が0・1歳児、午睡中が多いことも、保育士の不安を更に大きくしているのかもしれない 3)

応急手当は受講後、数週間でだんだん忘れていく。そのため、市民がいざという時に自信を持って応急手当を実施するためには、消防・赤十字社などによる定期的な受講とあわせて、自主学習による繰り返しの練習も必要となる。

日本版新ガイドライン2010にビデオ教材や簡易型蘇生人形を活用した心肺蘇生講習の有用性について記載された。DVDと人形で学べる学習教材もあり、一人でも短時間で効果的な練習ができるよう考えられているが、一般市民にはこのような情報はなかなか届かない。口頭指導周知とあわせて、市民が効果的に応急手当を復習できる情報提供も、国民への一層の応急手当普及につながるのではないだろうか。


⑤ 口頭指導周知は、活かされるとの回答が多かった。子どもたちに関わる職業の人たちの協力も得られれば、更に多くの子どもたちの社会復帰がかなうのではないだろうか(図6, 7)。

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* 保育関係者・幼稚園職員・養護教諭586人調査
図6 園・ 学校から保護者への口頭指導に関する情報提供は、家庭での子どもの事故発生時の対応に活かされると思うか?(養護教諭は教員、生徒への情報提供も含んでいる)

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*保健所関係者43人調査
図7 母親教室、乳児健康診査などを通じた母親への口頭指導周知は、家庭での乳幼児の事故発生時の対応に活かされると思うか?


⑥ 情報提供を「できない」と答えた人は全体でも少なかった(図8~11)。
それは皆さんが、子どもたちの命、健康を守るために保護者へ直接伝えることが難しくても保健だよりなど可能な範囲で情報提供していきたいとの思いからと、アンケートに書かれた意見からも伝わってきた。

⑤・⑥の質問は、NPO法人SIDS家族の会近畿支部代表の田上氏の言葉※を参考にした。

※「近畿で初めての「SIDS家族の会講演会」を開いたのは、活動開始から約一年後の1994年です。 がむしゃらに集まったビフレンダー *2たちは、まだお別れの後、日の浅い人たちばかりでしたが、それだけにえらいエネルギーがありました。私たちは、「あれもこれも」と考えた末、この講演会のプログラムの中に、救命救急法講習会も入れました。

目の前で突然心肺停止になった赤ちゃんがSIDSであれば、通常の蘇生法では効果は期待できません。しかしALTE(乳幼児突発性危急事態)や他のこれからもっとたくさん起こりうる乳幼児の危険に対し、出来るだけ多くの武器を持つことは、育児のプロにとってはもちろん、赤ちゃんを亡くした遺族にとっても大変有意義なことと私は思ったのです。

ところがいざこの講習を始めると、実技に参加する人は大変少なかったのです。私に手を引かれた妻も、言いだしっぺのくせに、頑なに拒みました。講習の後彼女たちに聞いてみたところ、赤ちゃんを亡くして間もないお母さんにとっては、モデルの赤ちゃん人形の表情が、お別れをした赤ちゃんそっくりに見えて仕方なかったそうです。率先して実技に参加した私は、確かに同じことを感じましたが、「エイヤッ!」と無視できました。私はなんと鈍感だったのでしょう。私はしり込みする遺族に「これから遭遇するかもしれない危機に、ずいぶん安心して対処できますよ」と言って、参加を強いたのです。

この反省から、救命講習は大事なことですが、保育士さん以外には、遺族ではなく、むしろこれから赤ちゃんを産むお母さんに対し「母親教室」などで行うべきではないかと、今では思っています。」

保健所関係者とあわせて保育関係者、幼稚園職員の協力も、家庭への一層の情報提供につながり、乳幼児の事故・SIDS予防および、いち早い119番通報、緊急時の適切な対応にも大きな効果が期待できるのではないだろうか。

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*保育関係者325 人調査
図8 保護者へ家庭での事故防止・SIDS予防・口頭指導情報を話すことは可能か?

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*幼稚園職員40人調査
図9 家庭での事故防止情報、口頭指導情報を保護者へ話すことは可能か?

☆ 「できる」と答えた人が他と比べて少ないのは、保健を専門に担当している養護教諭が、全幼稚園の3.3 %(平成19 年度)しか配置されていないことが、関係しているのではないかと推察される。

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*養護教諭102人調査
図10 「口頭指導」情報を保護者、職員、生徒へ話すことは可能か?

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*保健所関係者43 人調査
図11 出産前の「母親教室」で、家庭での事故予防(誤飲・溺水に関する注意など)・口頭指導情報、応急手当について、話すことは可能か?


⑦-1. サポートをとても多くの人が希望していることがわかった(図12)。

⑦-2 消防、病院によるサポートを希望している人が多いことが分かった(図13)。

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*保健所関係者以外、586人調査
図12 もし救助者となった時、傷病者に対する対応方法が間違っていなかったか、不安をもつことがあるかもしれない。そのような場合、消防などに相談できるサポート体制があったらいいと思うか?

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*保健所関係者以外、586人調査
図13 救助者となった時、相談等のサポートをしてほしい場所はどこか?(複数回答)


⑧ 口頭指導に関する意見、感想(一部)。

  • 口頭指導情報について、知ってはいましたが、情報提供が啓発という観点で携えたことはありませんでした。この機会にまずは保健だよりで連絡する際に取り入れてみようと思いました。

  • 保護者・職員への指導は非常に大切な取り組みと考えています。

  • 119番の口頭指導は良いと思います。実際そういう場面で、自分一人しか救命するものがいなかったら、誰かが一緒という意識になり、落ち着くことができたら心強いです。

  • 口頭指導がされている事がわかれば、とても安心できるので、多くの方が知る事ができたらいいと思います。

  • 救急時は動揺すると思うので、口頭指導はとても心強いのではないかと思います。

  • 毎年、救急法の講習会に行っていますが、やればやるほど、実際の緊急時にどこまで冷静に対応できるかと感じています。口頭指導は研修を受けているいないにかかわらず、大変重要なことだと思います。

  • 緊急時、何もしないで放置しておくことは最悪です。そのためにも口頭指導の存在を普及しておくことは、大切なことだと思います。

  • 口頭指導の普及に関しては、生徒へは直接、個別あるいは集団で話をすることが可能と思う。保護者は「保健だより」等を通じて知らせることは可能と思う。

  • 保護者へ安心感を与えるため、きちんと説明、紹介していこうと思いました。

Ⅲ. 考 察

119番通報時に口頭指導をしてもらえることを知っていることは、大きな安心感をもたらし、バイスタンダーとしての意識も高くなることがわかった。

口頭指導の周知は、市民が救急現場に遭遇した時にバイスタンダーとなる心構えを普段から持つことができる。それは一層の救命率向上につながる大きな力となると、強く感じた。

アンケート結果からバイスタンダーの心のケアも多くの人が希望していることがわかった。乳幼児の事故は家庭で発生することが多く、その場合、家族の中でも母親がバイスタンダーとなる可能性が高い。もしわが子の緊急時、救命および回復がかなわなかった場合、母親は自分を強く責めてしまい、その苦しみはとても深い。しかし、バイスタンダーの心のケアに取り組んでいる病院、消防はとても少ない。

今年5月、日本救急医学会中国四国地方会で、シンポジウム「心肺蘇生を行ったバイスタンダーに対する心のケア」が初めて開催された。市民への応急手当普及はとても大切だが、善意のバイスタンダーが1人で苦しみを抱え込まないよう、バイスタンダーの心のケアにも目を向けた取り組みが、今後更に増えていくことを切に願っている。

Ⅳ. おわりに

日本版ガイドライン2010(確定版)に市民への口頭指導周知が記載された。今後、市民へ119番通報時の口頭指導が広く周知されていくと期待している。

口頭指導等、保護者への情報提供を通じて更に子ども達の大切な命、健康が守られること、苦しんでいる人に手を差し伸べることが当たり前の日本になってほしいと願っている。

付 記

本報告は第27回日本救急医学会中国四国地方会(2011.5.14 岡山県)において発表した内容に詳細の追加および改定を行ったものである。

謝 辞

本調査にご協力いただきました保育関係者、幼稚園職員、養護教諭、保健所の皆様をはじめ、関係者の皆様に深く御礼申し上げます。また本稿作成にあたり、御助言をいただきました国立成育医療研究センター成育政策科学 研究部 部長 加藤忠明先生、有限会社マスターワークス代表 伊東和雄氏に心より感謝申し上げます。


この記事は、「小児保健研究」2011年第70巻第5号 585-589「119番通報時の口頭指導による応急手当」を転載したものです。


*1. 救急現場に居合わせた救助者、協力者。
*2. 同じ悲しみを経験したSIDS家族の会会員 で研修を受けた人。流産、死産、SIDS、その他病気等でお子さんを亡くした家族の話を聞き、その悲しみ、苦しみに寄り添いながら精神的な回復に向けたサポートをボランティアで行っている。
    文 献
  • 1) 吉本隆二 城崎温泉旅館における救命に関するアンケート調査についてプレホスピタル・ケア2009;26(6):63-67.
  • 2) 阿部憲悦 善意の応急手当がBystander のストレスとなった症例からの一考察日本臨床救急医学会雑誌 2001 ; 4(2) :151.
  • 3) 独立行政法人日本スポーツ振興センター.学校における突然死予防必携-改訂版-.2011.2.
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