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熊本地震で被災された発達障害をもつお子さんのご家族へ

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熊本地震で、家屋の倒壊や、余震への不安から、避難所で不慣れな生活を送っている方々はさぞお疲れのことと思います。

怪我や重い病気のある方はもちろんですが、慢性の病気や発達障害のある子どもとそのご家族も大変苦労されていると思います。

人工透析が必要な方や、糖尿病、高血圧などの、すぐに命に別状のない慢性疾患のある人は、避難所での生活が長くなると、被災当初にはなかった様々な問題が起こってきます。

生活リズムの狂いや、不眠、ストレスなどによって、被災前までは良好にコントロールされていた慢性疾患が悪化するのです。かかりつけ医や病院も被災によって、震災前の診療の維持ができなくなるだけではなく、震災による怪我や血栓症(エコノミークラス症候群)などによる患者さんの増加によって、相対的に医療サービスの量と質が低下してしまうのです。

自閉症や多動性障害などの発達障害のお子さんとその親御さんも、避難所生活の長期化によって、当初にはなかった様々な困難が生じてきます。

自閉症のお子さんは、もともと変化に対応することが苦手です。これまでの日常生活とはまったく異なる避難所での生活は、大変なストレスであり、不眠、いらいら、パニックなどの症状が悪化します。また慣れない避難所での生活は、自閉症の多くに見られる聴覚や視覚の感覚過敏症を悪化させます。騒がしく、視界に大勢の人が入ってくる体育館などでの避難生活は、一部の自閉症の子どもには堪え難い環境です。一部の避難所で取り入れられたようですが、カーテンやタオルによって周囲の刺激を遮蔽する生活環境がぜひとも必要です。

自閉症の子どもは子ども全体の1〜2%といわれていますので、大きな避難所には必ず数人いるはずです。避難所の責任者の方と相談し、周囲から遮蔽され、夜は暗くすることのできる空間を確保することが望まれます。

注意欠陥多動性障害の子どもの多くが、コンサータなどの薬で治療されるようになりました。コンサータは講習を受けた資格のある医師しか処方できませんので、避難所の医療を担当するDMAT(災害派遣医療チーム)のお医者さん達から処方を受けることはできません。またこれまで処方してもらっていた専門医にもかかりにくくなっています。家屋が倒壊はしていなくても、地震の揺れで常備薬などを紛失した方も多いと思います。服用しなくても命に別状がある訳ではありませんが、避難所などの刺激の多い環境では、不安症などの二次障害もおきやすいので、早めに専門医に連絡をとり、薬の確保などの行動を起こしておいた方が安全でしょう。

東日本大震災で被災した子ども達には、発達障害の有無にかかわらず、外傷後ストレス障害(PTSD)や不眠、不安などの症状が見られました。発達障害のある子どもは、こうした二次障害が起こりやすいハイリスク群の子ども達であるのです。

でも子ども達には、大人にない柔軟性もあります。東日本大震災で被災した子ども達は、しばらくすると他人に共感する気持ちが、被災していない子どもより大きく育つという調査報告もあります。

CRNでは、微力ですが被災したお子さんとその親御さんに役立つ情報を提供して行きたいと思っています。


【編集部より】

熊本県障がい保健福祉ホームページ内 平成28年熊本地震 災害時の「発達障がい児・者支援」について もご覧ください。

筆者プロフィール
report_sakakihara_youichi.jpg榊原 洋一 (CRN所長、お茶の水女子大学副学長)

医学博士。CRN所長、お茶の水女子大学副学長。日本子ども学会理事長。専門は小児神経学、発達神経学特に注意欠陥多動性障害、アスペルガー症候群などの発達障害の臨床と脳科学。趣味は登山、音楽鑑賞、二男一女の父。

主な著書:「オムツをしたサル」(講談社)、「集中できない子どもたち」(小学館)、「多動性障害児」(講談社+α新書)、「アスペルガー症候群と学習障害」(講談社+α新書)、「ADHDの医学」(学研)、「はじめての育児百科」(小学館)、「Dr.サカキハラのADHDの医学」(学研)、「子どもの脳の発達 臨界期・敏感期」(講談社+α新書)など。
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