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【不安障害】第2回 不安障害の種類 その1

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前回説明したように、不安障害は、人間という動物が、危険に満ちた世界の中で生きてゆくための安全装置である脳の扁桃体などの働きが、過剰になってしまった状態と考えることができます。これはちょうど、私たちの身体のウイルスや細菌などによる感染を防御するシステムである免疫系が、いわば暴走状態になってしまい、アトピー性皮膚炎や喘息を引き起こしてしまうことと似ています。免疫系の暴走によって引き起こされる病気には、上記のアトピー性皮膚炎や喘息だけでなく、食事アレルギーや腎炎などの多様な病態がありますが、不安障害もきわめて多様な様態があります。不安障害に含まれる状態には、①分離不安②全般性不安障害③強迫性障害④パニック障害⑤心理的外傷後ストレス障害⑥急性ストレス障害⑦社交不安障害⑧選択的緘黙かんもく症(場面緘黙かんもく症)⑨限局性恐怖症などがあります。こうした種類の多さが、不安障害という単純な名前の状態を分かりにくくしている要因の一つかもしれません。まず、これらの不安障害のタイプごとにその概要を説明します。


① 分離不安

分離不安は、親や家庭など子どもが愛着を感じている人や、安心できる場所から離れることを極度に嫌がり、しばしば腹痛や頭痛などの身体症状を伴う状態を言います。不安が昂じると、親や家庭を離れることを拒否するようになります。分離不安のために学校にいけなくなることは、一見学校恐怖症と似ていますが、学校恐怖症が、学校でのいじめや授業を受けることの苦痛が原因であるのに対し、分離不安では親や家から離れることの不安が原因になる点が異なっています。分離不安というと乳幼児期の不安障害のように聞こえますが、診断基準では18歳までに見られるものとなっています。


② 全般性不安障害

何か特別な状態(高所、閉所、分離)に対して不安を感じるのではなく、日常生活の様々な場面で「何事にも心配してしまう」状態です。これから起こることがすべてうまく行かなくなるのではないかと思ってしまいます。

「家族が交通事故にあってしまうのではないか」「次の試験で悪い点をとってしまうのではないか」「友人が自分のことを嫌いになってしまうのではないか」「今乗っている電車が事故を起こすのではないか」といった日常のライフイベントが、すべて何らかの失敗や事故に結びついてしまうのではないか、という予想になってしまう状態です。本人はそうした恐怖感のために、「頭の中が真っ白」になったり、「いつもいらいら」していたりします。またそうした不安感、焦燥感のために、夜になってもなかなか寝付けなかったりします。


③ 強迫性障害

ある特定の考え(予感、嫌な記憶、イメージ、焦燥)が、頭から去らず、そのためにある行動(強迫的行動)や行為をしなければ気が済まない状態が続くのが強迫性障害です。

このような説明では分かりにくいかもしれませんので、皆さんもどこかで聞いたことのある典型的な強迫性障害の例をあげてみましょう。

みなさんは「戸締まり恐怖症」や「不潔恐怖症」という言葉を聞いたことはありませんか。

家を出たあとに「どこかの窓や戸の鍵をかけ忘れたのではないか」ということが気になり始め、帰宅して鍵がかかっているか確認するのですが、家を離れると、「ほかの鍵をかけ忘れたのではないか」と心配になり、何度も家まで往復してしまうのが「戸締まり恐怖症」です。この場合鍵をかけ忘れたのではないかという気持ちを「強迫観念」といい、家まで往復してしまう(時にはそのために家から出られなくなってしまう)のが「強迫行動」です。

「不潔恐怖症」は、何回手を洗っても自分の手が汚れている、あるいは細菌がついている、と思ってしまうために、一日に何十回と手を洗わずにはいられないものです。石鹸で手が荒れ皮膚がぼろぼろになってしまっても、手洗い行動をやめることができません。

ほかにも、自分の体から臭い匂いがでているのではないかと不安に思う「自己臭恐怖症」や、自分の顔が醜いのではないかと恐れる「自己醜型恐怖」といわれるものも、すべて強迫性障害の中に入ります。


一言で不安障害といってもいろいろあるな、と驚かれた方もいると思いますが、実はまだ半分ほどしか説明できていません。その2で残りの不安障害の種類について述べたいと思います。

筆者プロフィール
report_sakakihara_youichi.jpg榊原 洋一 (CRN所長、お茶の水女子大学大学院教授)

医学博士。CRN所長、お茶の水女子大学大学院人間文化創成科学研究科教授。日本子ども学会理事長。専門は小児神経学、発達神経学特に注意欠陥多動性障害、アスペルガー症候群などの発達障害の臨床と脳科学。趣味は登山、音楽鑑賞、二男一女の父。

主な著書:「オムツをしたサル」(講談社)、「集中できない子どもたち」(小学館)、「多動性障害児」(講談社+α新書)、「アスペルガー症候群と学習障害」(講談社+α新書)、「ADHDの医学」(学研)、「はじめての育児百科」(小学館)、「Dr.サカキハラのADHDの医学」(学研)、「子どもの脳の発達 臨界期・敏感期」(講談社+α新書)など。
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