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【発達障害】第4回 自閉症スペクトラムその1

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発達障害の中で一番多い注意欠陥多動性障害(ADHD)について、3回に亘って連載をしてきました。少し時間が空いてしまいましたが、今回から自閉症スペクトラム障害について書いていきたいと思います。

注意欠陥多動性障害という診断名とその概念が確立してからまだ20年しかたっていませんが、自閉症スペクトラム障害は最初に報告されてからすでに70年近く経過しています。

しかしADHD同様、その実態については現在でも毎年新しい知見が追加され、その理解が進歩してきています。 歴史が古いので、心理学関係の学会では、自閉症スペクトラム障害はよく知られています。最近出たある心理学関係の学会では、発達障害についての研究発表が数十題もありましたが、ほとんどすべてが自閉症スペクトラム障害についての発表でした。残念ながらADHDについては数例しか発表がなく、心理関係の学会でのADHDの認知度の低さにがっかりしています。

まず名前?

心理学関係の学会で、発達障害というと自閉症スペクトラムのことに関心が集中してしまう理由はいくつか考えられます。まず第一にその名前です。自閉症スペクトラム障害というのが、現時点でのもっとも新しい呼び方ですが、同じ意味で、自閉症、広汎性発達障害、自閉性障害などの言葉も使われます。特に2番目の広汎性発達障害は、アメリカの現時点の診断基準上での呼称です。広汎性「発達障害」という名前があるために、発達障害というとまず思い浮かべるのがこの障害であるということが、関心が集中する理由です。

さらに、自閉症スペクトラム障害は、人の能力の中で際立っている「社会性」の障害であることが耳目をひきつける理由なのではないかと思います。自閉症スペクトラム障害は、かつては10000人に4~5名といわれていましたが、診断基準の整備によって現在では人口の1~2%といわれています。かなり多いのですが、それでもADHDの数分の一以下の頻度です。

どんな障害か?

自閉症スペクトラム障害は、1943年にアメリカのカナーによって初めて報告されました。その原因は当時は全くわかっていませんでしたが、その後の研究によって次の3つの特徴があることがわかりました。

第一に、社会性の発達の障害です。他人の意図を理解したり、表情やジェスチャーを理解することが困難なことです。私たちは、他人から「私は怒っているの」とか「うれしいんだよ」といわれなくても、その人の表情や立ち振る舞いから他人の気持ちを知る能力を持っています。この能力の発達が不十分なのが自閉症スペクトラム障害の人たちの第一の特徴です。

第二に、特定の物や場所、行為に執着するこだわり行動が顕著なことです。おもちゃの特定の部分(自動車のタイヤ、電話のダイヤルなど)だけに関心をもって、そこだけ触って遊んだりします。また、特定の服や靴しか履きたがらない、食べ物の舌触りに敏感などの症状があります。

第三に、言葉の遅れがあります。程度はさまざまで、まったく言葉がでない子どもがいる一方、発達は遅れるが会話が成り立つ子どももいます。さらに、自閉症スペクトラム障害の中で、言葉の発達の遅れが全くない一群があることもわかり、最初の報告者の名前からアスペルガー症候群と呼ばれています。

また全例ではありませんが、大きな音や特定の触覚に過敏な反応をする場合もあります。 自閉症スペクトラム障害の理解を難しくしているのが、約80%の子どもに見られる知的障害の合併です。なかには重度の知的障害を合併することがありますが、まったく知的障害のない場合もあります。後者は、高機能自閉症と呼ばれ、言葉の遅れのないアスペルガー症候群とほぼ同じものと考えられています。

次回は、自閉症スペクトラム障害の子どもの日常生活には、どのような困難があるのかについて述べてみたいと思います。

筆者プロフィール
report_sakakihara_youichi.jpg榊原 洋一 (CRN所長、お茶の水女子大学大学院教授)

医学博士。CRN所長、お茶の水女子大学大学院人間文化創成科学研究科教授。日本子ども学会副理事長。専門は小児神経学、発達神経学特に注意欠陥多動性障害、アスペルガー症候群などの発達障害の臨床と脳科学。趣味は登山、音楽鑑賞、二男一女の父。

主な著書:「オムツをしたサル」(講談社)、「集中できない子どもたち」(小学館)、「多動性障害児」(講談社+α新書)、「アスペルガー症候群と学習障害」(講談社+α新書)、「ADHDの医学」(学研)、「はじめての育児百科」(小学館)、「Dr.サカキハラのADHDの医学」(学研)、「子どもの脳の発達 臨界期・敏感期」(講談社+α新書)など。
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