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第1回「放射線と子ども~正しく恐れるための知恵を学ぶ~」研究会:講演2「放射性物質の乳製品への影響」③

講演者: 眞鍋 昇(東京大学大学院 農学生命科学研究科教授)

2012年9月 7日掲載
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セシウムが低レベルで移行する

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ミルク中のセシウムの推移です。これはセシウム134と137を足したものですが、確かにセシウムが含まれたエサを与えますと、スーッと速やかに放射線量が上がっていって、12日ぐらいで一定値になります。今回紹介していませんが、ずっと放射性物質を含んだヘイレージを与えた場合、どうなるかということを予備的にやっているのですが、40 Bq/kgくらいで一定値になります。これ以上はなかなか上がらない。その後、含まないエサに切りかえますと、速やかに下がってくるということがわかりました。

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このことから、エサに含まれています放射性核種は、牛乳にとても速やかに移行する。それを止めると低下するということがわかりました。これはごく概算なのですが、1日当たり1,250Bq/㎏ぐらいの放射性セシウムを含むエサを2週間ほど与えた。それでも牛乳中の暫定規制値である1㎏当たり200ベクレルとか、この4月からの牛乳の新しい基準値である50ベクレルよりも低いレベルでした。でも、決してゼロではないというようなレベルでミルク中に移行するということがわかりました。

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移行係数、要は牛に与えた量、ミルク中に出た量を単純に計算したものですが、今回のデータを見ますと、0.0032。この値は、チェルノブイリでの値、国際原子力機関が公表している値、我が国のほかの研究機関が行った値とおおむね同じレベル、あるいは若干低いというようなレベルでした。おおむね世界中で大体このくらいのものかなと思います。これより低いこともないでしょうし、あまり高いこともないでしょうと、いうことです。

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最後になりますが、放射性セシウムの基準値、昨年決められた暫定規制値というのが、飲料水は200 Bq/kg、牛乳とか乳製品も200 Bq/㎏、ほかのものは500 Bq/㎏ぐらいと言われていたのですが、この4月から、飲料水は10 Bq/kg、牛乳や乳児用の食品は50、一般食品は100 Bq/㎏といった非常に低いレベルになります。ただ、今回紹介したような牧草というのは、汚染していると言いながら、クールスポットといいますか、結構低いレベルなのです。これでミルク中は40 Bq/kgぐらいということになりますが、先ほど申し上げたように、福島から遠い岩手県あたりでも結構高いところがあって、新基準値の50 Bq/㎏以下を維持するのは本当に可能なのかということで、もう少し細かい実験が必要だということになっております。


基準値が厳し過ぎると、エサの自給が難しくなる

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エサに含まれる放射性物質の基準は、牛は300 Bq/kg、馬なども300 Bq/㎏、魚は100 Bq/㎏と言われていたのですが、新しい基準値では、特にミルクを生産するための牛については、エサの平均ですが、100 Bq/kg以下にしてくださいと言われ始めています。ですから、結構厳しいことになってきたということです。

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厳しいのはいいことのように思うのですが、そのことで新たな問題が生じる可能性があります。

実は日本は食料自給率が非常に低い。例えば果物は40%、あるいは小麦は13%だけが国産です。牛肉とか豚肉は半分くらいが国産です。米はほとんど国産ですが、大豆に至っては5%にすぎません。

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ところで、家畜のエサというのは国産率が25%ぐらいです。残りの75%ぐらいは輸入して、輸入しているのは主にトウモロコシのような穀物です。本日お話ししたような粗飼料と呼ばれる牧草は輸入ではなく、国内の牧草を使っています。というのも、外国の牧草の原価は安いのですが、かさがはって、輸送費がものすごく高くなって、結果的には高くついてしまうからです。つまり、牧草生産がダメになってしまったら、今後、安定的に、例えばミルクの生産や牛肉の生産などができるのか、実はまだ誰も自信を持って答えられないのです。

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「食料の自給をやればいいのだ」とよく言われています。それで見ていただきたいのですが、これが日本の国内の耕地面積です。もう500万ヘクタールを割っています。この中で田んぼや畑があって、お米をつくったり、果物をつくったりしています。先ほども申し上げたように、畑の一部分を使って牧草もつくっているわけですが、トウモロコシのような飼料用の穀物はほとんど輸入しています。日本では作っていなくて、外国のどこかで作っているものを運んできている。いま、この全体を日本人が食べているというふうに理解していただきたい。

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実は、現在の輸入のエサの部分を日本の国内でまかなおうとすると、日本の耕作面積の大半が必要になります。だから、輸入飼料で卵や豚肉を生産せざるを得ない。耕作面積のことを考えると、今後、安定的な畜産物の生産は難しくなるかもしれないということです。

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【第1回「放射線と子ども~正しく恐れるための知恵を学ぶ~」研究会】
1.研究会の4つの方針
2.講演1「放射線による健康被害のとらえ方」(稲葉 俊哉氏)①  
3.講演2「放射性物質の乳製品への影響」(眞鍋 昇氏)①  
4.コメンテーターからの発言
5.フリーディスカッション①   

筆者プロフィール

眞鍋 昇(東京大学大学院 農学生命科学研究科教授)

1978年京都大学農学部卒業。1983年京都大学大学院農学研究科博士後期課程修了。日本農薬株式会社医薬・安全性研究所研究員、パストゥール研究所研究員を経て、1992年京都大学農学部助教授。2004年より現職。学術会議会員。
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