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第1回「放射線と子ども~正しく恐れるための知恵を学ぶ~」研究会:講演2「放射性物質の乳製品への影響」②

  ② 

放射性セシウムの移行について実験する

昨年(2011年)4月ごろに農水省から、牧草中の放射性物質がどの程度ミルクの中に移行するのか、エサを放射性物質を含まないようなものに切りかえたら、本当にミルクの中から消えるのかを調べてくれと言われました。それで実験を行いました。

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下の写真はミルクを出している状態のメスのホルスタインです。上の写真は私たちがいる茨城県笠間市の牧場の航空写真です。このように敷地のほとんどは牧草地です。このあたりにセシウムなどの放射性物質が降り注いでしまいました。それを牛に与えて、ミルク中にどのように移行するのかを調べました。

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まず、前提として、皆さんにごく簡単に紹介させていただきたいのは、ヘイレージ、これは要するに乳酸発酵させた牧草の漬け物です。牛は天然状態ですと草をそのまま食べているのですが、牧場では、ちょうど4月の末から5月ぐらいに伸びてきた草を刈って、パッキングしまして、乳酸発酵させたものを、2年間ぐらいエサとして与えます。北海道では発酵させたものではなく、乾燥させた乾草をつくれるのですが、本州はちょうど5月、6月は梅雨時期でして、乾草をつくっても夏のうちにカビてしまいます。カビ毒というのはなかなか怖いものですから、ほとんどはこのような発酵させたヘイレージを与えます。

もう1つはTRM(配合飼料)をあたえます。TRMとは、輸入品のトウモロコシと粗飼料―粗飼料というのは草のことなのですが―をまぜたもので、これらには問題になるような放射性物質が含まれていません。

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どういう実験をやったのかというと、放射性核種が含まれていないTMRという輸入されたエサを2週間ほど与えまして、この間に尿や血液をいろいろ調べて、放射性核種が検出できないことを確認します。そして、昨年5月に収穫しましたヘイレージ、これには放射性のセシウムが含まれています。それを2週間ほど与えて、その後、また2週間ほど含まれていないものを与えるということを行いました。メスの乳牛は体重が600㎏くらい、人間の10倍くらいあります。エサを1日に30~35㎏食べて、水を約80リッター飲んで、ミルクを20から30リッターぐらい生産します。

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ヘイレージのヨウ素は5月の時点では検出されていなくて、セシウムの134と137がそれぞれ1㎏当たり600とか650ベクレルです。低いながらでも確かに含まれているというレベルです。

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実際には、牛の体重をはかって、体重あたり一定になるようにエサの重さをはかって、エサを1日に2回ほど、一頭一頭別々に与えるということをしました。

別々に与えた後、ちゃんとお乳を搾って、お乳の中の量とか、今回はお話ししませんが、血液とか尿の中の量もずっとモニタリングするということをやっております。

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このように一頭一頭、泌乳量等をはかって、サンプリングしましたものをゲルマニウム検出器で測定します。

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縦軸は食べているエサの量ですが、どちらも変わらない。牛にとっては、何回も採血されたり、尿を取ったり、結構ストレスなのですが、ストレスといいながら、そんなに大きい問題はなかったことになります。後から考えるとあまり必要なかったのですが、臨床生化学的な検査も行っています。

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【第1回「放射線と子ども~正しく恐れるための知恵を学ぶ~」研究会】
1.研究会の4つの方針
2.講演1「放射線による健康被害のとらえ方」(稲葉 俊哉氏)①  
3.講演2「放射性物質の乳製品への影響」(眞鍋 昇氏)①  
4.コメンテーターからの発言
5.フリーディスカッション①   
筆者プロフィール
眞鍋 昇(東京大学大学院 農学生命科学研究科教授)

1978年京都大学農学部卒業。1983年京都大学大学院農学研究科博士後期課程修了。日本農薬株式会社医薬・安全性研究所研究員、パストゥール研究所研究員を経て、1992年京都大学農学部助教授。2004年より現職。学術会議会員。
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