TOP > 研究室 > 東日本大震災の子ども学:子どもの心のケア > 第1回「放射線と子ども~正しく恐れるための知恵を学ぶ~」研究会:講演1「放射線による健康被害のとらえ方」①

このエントリーをはてなブックマークに追加

研究室

第1回「放射線と子ども~正しく恐れるための知恵を学ぶ~」研究会:講演1「放射線による健康被害のとらえ方」①

講演者: 稲葉 俊哉 (広島大学原爆放射線医科学研究所 副所長)

2012年8月31日掲載
中文
①   

広島大学の稲葉でございます。今回の事故が起こるまでは、放射線について一般向けの講演をすることは少なかったのですが、この1年間は一般の方々に放射線のお話をさせていただく機会が随分とございました。最初のころは、たとえば「内部被ばく」と一言いっただけで、「内部被ばくって何ですか」と問われて、その説明に10分、15分とかかってしまいました。ところが、その後、皆さん急速に知識をつけられて、基本的な用語の説明をする必要がなくなってしまったわけです。

それでは、講演を始めさせていただきます。

lab_06_44_1.jpg
言うまでもなく、福島第一原発事故は甚大な被害を福島にもたらしました。被害は大きく3つあると思います。1つ目は家や生活基盤を失った人が多数いるということ。2つ目は、産業、特に農産物への被害が出たということ。3つ目は、健康被害、あるいは健康不安ということです。

放射線が人に当たりますと、大きく2つの困ったことが起こります。1つは、非常に高い線量だった場合、1シーベルト以上というような場合ですが、その場合は急性障害が、数日、数週、数か月以内に起こってきます。毛が抜けたり、局所的にやけどやケロイドが起こるわけですが、とくに重症ならば内臓へのダメージが出てきます。ダメージを受けやすいのは、脳、腸管、血液が代表的ですが、ひどいときには死に至ります。

2つ目は、2年から66年間続く――66と中途半端なのは、原爆から今年が66年目なので66なのですが、恐らく一生続くという、がんや白血病の増加です。

後で述べますが、大量の放射線を浴びた場合でさえ、子どもにその影響が伝わるおそれはない、つまり遺伝的影響はみられない、ということに留意してください。


広島・長崎の原爆による健康被害

福島原発の健康被害を予測するために何が参考になるかというと、結局のところ、広島・長崎の原爆とチェルノブイリの原発事故の2つしかありません。

広島・長崎の原爆から簡潔にレビューします。爆弾というと、どうしても地面に落ちてきてそこで爆発するというイメージが強いので、原爆も地上で爆発したと思っていらっしゃる方が案外多い。しかし、原爆は空中で爆発しました。地上600m、東京スカイツリーのてっぺんぐらいで爆発して、放射線が何十万人もの市民のいる地上に降り注いだわけです。一方、大量の放射性物質は上空へ抜けてしまいました。放射線と違って、放射能はほとんど降り注いでいないのです。ものすごい上昇気流が起こりますから、それに乗って一遍に上空へ抜けていった。上空には強い偏西風が流れていますので、それに乗って地球上の至る所にばらまかれたのです。

lab_06_44_2.jpg
つまり、広島・長崎での問題は、主に外部被ばくになります。何十万人の市民に上空から大量の放射線が降り注いだというケースです。量がとてつもなく多い。その結果としてひどい急性障害が起こって、20万人と言われる死者を出しました。

その後、もう70年になろうとしていますが、12万人という膨大な数の被ばく者についてずっと今日に至るまで追跡調査を行ってきたわけです。調査の立ち上げの中心となったのが、アメリカのABCC(原爆傷害調査委員会)という組織です。向こうは戦勝国でこちらは敗戦国、日本は占領されていて主権もなかった訳ですから、かなり強制に近い形で行われました。アメリカが主導して、膨大な費用とマンパワーをかけたわけです。その後、1976年にABCCはRERF(放射線影響研究所)という日米共同の研究所に改組されて、少しは日本の考えが入るようになったわけですが、こうした背景のもと、精緻で計画的な科学的調査が行われ、たくさんのことがわかったわけです。

白血病は2、3年後から増え始めて、10年、20年ぐらいがピークで、その後、徐々に減っていきました。固形がん、僕らが普通に考える肺がんや乳がんなどは、少し遅れて、20年あるいは30年経って、つまり1970年ぐらいから増え始めまして、現在もそれが続いています。このことから、一度浴びた放射線の影響は恐らく生涯続くと考えています。正確な数は誰にもわからないのですが、被ばくしたことにより、数万人ぐらい白血病やがんの患者が増えたと考えられています。

100ミリシーベルトでがんになるという話がよく出てくるのですが、これはこの調査によって明らかになった数字です。100ミリシーベルトを超えるとがんは増える。一方、100ミリシーベルト以下の被ばく者のがんの増加ははっきりと確認できない。それで、100ミリシーベルトという数字が判断の基準になるわけです。

それから、被ばく2世、つまり被ばく者の子どもたちの研究も7万6千人という大きなスケールで行われ、今も続いています。結論として、広島・長崎では被ばく2世には遺伝的影響は見られません。多量の放射線を浴びた人が多数いらっしゃるわけですが、その人たちの子どもたちには影響は出なかったというのが、この研究のもうひとつの非常に重要な結論です。福島で、次の世代に関しては心配ないと申し上げているのは、このことを根拠にしています。

①   

--------------------------------
【第1回「放射線と子ども~正しく恐れるための知恵を学ぶ~」研究会】
1.研究会の4つの方針
2.講演1「放射線による健康被害のとらえ方」(稲葉 俊哉氏)①  
3.講演2「放射性物質の乳製品への影響」(眞鍋 昇氏)①  
4.コメンテーターからの発言
5.フリーディスカッション①   

筆者プロフィール

稲葉俊哉先生稲葉 俊哉 (広島大学原爆放射線医科学研究所 副所長)

医学博士。広島大学原爆放射線医科学研究所副所長。東京大学医学部卒。埼玉県立小児医療センター、St. Jude Children‘s Research Hospital、自治医科大学講師などを経て、2001年広島大学原爆放射能医学研究所教授。2009年から現職。専門は血液学(白血病発症メカニズム、小児血液学)、分子生物学、放射線生物学。
このエントリーをはてなブックマークに追加
サイトマップはこちら
サイトの全体像が分かります。

Twitter  Facebook

CRNアジア子ども学交流プログラム

名誉所長ブログ

イベント

ご意見・ご質問

メルマガ登録

世界の幼児教育レポート

CRN刊行物