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第1回「放射線と子ども~正しく恐れるための知恵を学ぶ~」研究会:研究会の4つの方針


期日:2012年3月17日(土)
場所:新宿三井住友ビル12F  ベネッセプレゼンルーム
講演者:稲葉 俊哉(広島大学 放射線医科学研究所副所長)
      眞鍋 昇(東京大学 農学生命科学研究科教授)
コメンテーター:小林 登(東京大学名誉教授、日本子ども学会理事長、CRN所長)
          榊原 洋一(お茶の水女子大学教授、日本子ども学会副理事長、CRN副所長)
コーディネーター:木下 真(日本子ども学会事務局長、CRN外部研究員)
共催:日本子ども学会、チャイルド・リサーチ・ネット(CRN)

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研究会の4つの方針

第1回「放射線と子ども」研究会を始めたいと思います。まず研究会の方針を、私からご説明させていただきます。本研究会のタイトルは「放射線と子ども~正しく恐れるための知恵を学ぶ~」としました。そして、研究会の方針を4つ挙げました。
1)正当にこわがるのはなかなかむずかしい
2)多領域の専門家の意見を聞く
3)子どものリスクを総合的に判断する
4)福島の子どもの安全・安心を中心に考える
第1番目の「正当にこわがるのはなかなかむずかしい」。今回の原発問題に関して、研究者の方々から、「正しく恐れよ」という発言が頻繁に繰り返されまして、それが大正時代の物理学者で随筆家の寺田寅彦の言葉としてよく紹介されます。しかし、原典に当たってみましたら、寺田寅彦の言わんとするところは、「正しく恐れよ」というよりも、それは「なかなかむずかしい」という言い方に重きがあるように感じられました。

この件が出ている「小爆発二件」の随筆の記述をそのまま引用しますと、「ものをこわがらな過ぎたり、こわがり過ぎたりするのはやさしいが、正当にこわがるのはなかなかむつかしいことだと思われた」と書かれています。我々は放射線の専門家の研究会ではありませんので、このように謙虚に、なかなか難しいことだから学んでいこうという姿勢で臨みたいと思います。

2番目は「多領域の専門家の話を聞く」。今回、マスコミに原子力工学の専門家の方たちが出てきていろいろ発言されるのですが、子どもの問題は当然、医学的な見地からの話も必要ですし、生態学系の話も必要です。一番手薄になっているのが放射性物質が自然界の中でどういう挙動をなすのか、動物や植物にどのように移行しているのかという、生態学系の話です。原子力工学、医学、生態学、これらの3つがそろって初めて放射線の問題の基本的な視座ができると思うのです。

その後に我々の研究会などで、小児医学、小児精神医学、児童福祉などの先生方の知見と合わせるということで、初めて子どもたちをどう守るかという考え方ができるのではないかと思います。日本子ども学会はそれぞれの分野で第一人者の先生方がお集まりですが、放射線の問題というのは専門外のことだと思いますし、関係する分野の先生方の知見を聞いた上で、それを子どもの分野に落としていければと思っております。

3番目は「子どものリスクを総合的に判断する」。今回、子どものリスクは大きく2つあって、原発事故そのものに伴うリスクと避難生活に伴うリスクだと思います。避難生活にともなうリスクというのは、下にざっと列記しました。

まず貧困の問題。すなわち、親たちが仕事をなくしたり、家をなくしたり、自主避難している人たちが自分の貯金を取り崩したり、そういう経済的な問題で苦しんでいる親御さんたちはいっぱいいます。そういうことが当然、子どもにも影響してきます。あと、家族の形態がかなり変わって、父親だけが1人で福島に留まってという場合もありますし、仮設住宅などでは家族関係があまり良好にいっていないケースもあって、そういうことも子どもに影響します。栄養不足の問題もあります。野菜をふんだんにとれる状況にない子どもが多い。これは福島ではないのですが、岩手県の大船渡市による調査では、仮設住宅に暮らしている人の8割以上に国の基準値を下回る値で、ビタミンやミネラルの不足が見られるというデータも出ています。

他にも、子どもたちに外に出て伸び伸び遊べとは言えない状況ですから、なるべく家の中にいろとか、激しい運動をするなということを言っています。そのために生じる運動不足。それから、避難環境の中で学習の遅れや生活習慣の乱れが起きています。そういう細かい精神的ストレス全般と、原発の放射能のリスクと、その両方を総合的に考えなければならないだろうと思います。

最後の4番目。これは一つの立場というか、倫理的な問題であると思いますが、今回の福島の原発事故の一番の被害者は福島の人々なので、福島の人々に寄り添う、福島の子どもたちの安全・安心を念頭に置く、これは据えておかなければならないと思います。放射能に関しては、もちろん全国の子どもたちそれぞれにリスクがあると思うのですが、福島で暮らす子どもたちのリスクがもっとも大きいのは明らかです。ですから、福島の子どもたちをきちんとリスクヘッジできれば、全国の子どもたちのリスクヘッジも当然できると思います。

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【第1回「放射線と子ども~正しく恐れるための知恵を学ぶ~」研究会】
1.研究会の4つの方針
2.講演1「放射線による健康被害のとらえ方」(稲葉 俊哉氏)①  
3.講演2「放射性物質の乳製品への影響」(眞鍋 昇氏)①  
4.コメンテーターからの発言
5.フリーディスカッション①   
筆者プロフィール
木下 真 (日本子ども学会事務局長、CRN外部研究員)

日本子ども学会事務局長。CRN外部研究員。フリーライター。1957 年生まれ。早稲田大学第一文学部人文学科卒業。1993 年-96 年子どもの学際的な研究誌『季刊子ども学』(ベネッセコーポレーション)の企画編集に携わる。障害者のための就職情報誌『クローバー』スタッフライター。現在、震災復興についてのテレビ番組のリサーチを担当。
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