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【放射線と子ども】第2章 放射線の量と健康への影響

稲葉 俊哉 (広島大学原爆放射線医科学研究所 副所長)

2011年4月13日掲載
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第1章では、放射線・放射能はどこにでもあるもの、だからあるかないかが問題ではなくて、その「量」が問題であるという話をしました。また、放射線が困ったちゃんなのは、DNAを切るといういたずらをするからで、それは放射線が活性酸素を作るから。ただ活性酸素は放射線を浴びなくても「自然と」私たちの体内にたくさんできているという話をしました。

「直ちに健康に影響のない量」って何のこと・・・?

それでは、放射線・放射能の「量」をどうやって見極めたらいいのでしょうか?何マイクロシーベルト以上ならどーのこーのって、数字を覚えないといけないのでしょうか。

そんなことは専門家に任せておけばよいのです。

みなさまに必要なのは、専門家の言葉が意味するところを理解する「知恵」です。たとえば、よく聞かされる「直ちに健康に影響のない量」って言葉が何を意味するのか、分かりにくいですよね。私自身は、テレビで発言する際には、注意深くこの言葉を避けました。かえって不安をあおると思ったからです。しかし、この言葉を使いたくなる気持ちもよくわかります。テレビでは、詳しく説明する時間がありません。いいたいことの百分の一も話せません。やむをえず、「直ちに健康に影響のない量」という、(話す人にとって)無難な言葉を使ってしまうことになりがちです。


「直ちに健康に影響のある量」とは?

この言葉の意味を理解するために、まず「直ちに健康に影響のある量」から説明します。これは、とても極端な話です。広島・長崎に原爆が投下され、何万人もの方々が極端に大量の放射線を浴び、一月以内に亡くなりました。最近では10年ほど前に、茨城県東海村の原子力関連工場で事故があり、現場で作業中の2人の方が直ちに健康を損なって、亡くなりました。覚えておられる読者も多いと思います。

いくら生物が、放射線と長~い付き合いで、対処法を熟知していると言っても、物事には限度があります。極端に大量の放射線には歯が立ちません。

今回の原発事故で、このような量の放射線を浴びる人が出るとすれば、原発内で作業をする方々です。幸い今のところ大丈夫です。専門家は、これからも大丈夫だろうと予想しています。まして、原発から数キロメートルも離れていれば、この「直ちに健康に影響のある量」を浴びる可能性はありません。


後から出るかもしれない影響とは?

それでは、直ちには影響がないとしても、後から影響が出るの?という話になります。この「後から出るかもしれない影響」とは、がんです。ちょっと怖い話になってきました。

がんは放射線を浴びなくてもなる病気です。だから放射線の影響は、放射線を浴びなかった人たちよりも、浴びた人の方が、がんになりやすくなる、という形で現れます。それも、放射線を浴びてから何年~何十年経ってから起きます。広島・長崎でも、原爆で放射線を浴びた人たちの中から、浴びなかった人たちより、多くのがんが発生しました。それは原爆投下後60年以上を経過した今も続いています。

「やっぱり放射線を浴びるとがんになるんだ」、と言うつぶやきが聞こえてきそうですが、ちょっと待ってください。ずっと言い続けている、あの言葉を思い出してほしいのです。そうです。ここでも放射線の「量」が大切なのです。


がんがあとになって出てくる量ってどれくらい?

それでは、どのくらいの量の放射線を浴びると、どのくらいがんになりやすくなるのでしょうか?

放射線が、お肌の大敵「活性酸素」を生み出し、活性酸素がDNAを切るのがトラブルの始まりだ、というお話をしました。でも、生物の方も心得たもので、DNAを切られると、速攻でつなぎ直します。何の問題もありません、と言いたいところですが、直す時にたまにミスをするのです。実は、これが問題で、先々のがんに結びついてしまうのです。

普段の生活では、わずかに浴びている放射線が作り出す活性酸素よりも、自然にできてしまう活性酸素の方がはるかに多いのです。生物は常に余裕を持ってことにあたります。細胞は、自然にできる活性酸素が切ったDNAをつなぐのに、鼻歌で対応できるだけの能力を持ち合わせています。そこに、放射線による活性酸素が少々加わっても、そうそうミスが増えるものではありません。

でも、放射線の量が増えてくると、だんだん処理がしんどくなってきて、ミスが目立つようになります。そして瞬間値100ミリシーベルトを越えると、がんになる可能性が目に見えて増えてしまいます。数値は専門家に任せなさい、と言ったのに、とうとう具体的な数値を出してしまいましたが、この瞬間値100ミリシーベルトというのはどこから来たのか、そもそも瞬間値って何なのか、次の章で説明します。

【放射線と子ども記事一覧】
 ・【放射線と子ども】第1章 放射線の正しい知識
 ・【放射線と子ども】第2章 放射線の量と健康への影響
 ・【放射線と子ども】第3章 放射線規制値の正しい認識
 ・【放射線と子ども】第4章 ヨウ素131と子どもの甲状腺がん  ・【放射線と子ども】第5章 福島原発事故の健康影響はどのようにして明らかになるか?

筆者プロフィール

稲葉俊哉先生稲葉 俊哉 (広島大学原爆放射線医科学研究所 副所長)

医学博士。広島大学原爆放射線医科学研究所副所長。東京大学医学部卒。埼玉県立小児医療センター、St. Jude Children‘s Research Hospital、自治医科大学講師などを経て、2001年広島大学原爆放射能医学研究所教授。2009年から現職。専門は血液学(白血病発症メカニズム、小児血液学)、分子生物学、放射線生物学。
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