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【放射線と子ども】第1章 放射線の正しい知識

稲葉 俊哉 (広島大学原爆放射線医科学研究所 副所長)

2011年4月12日掲載
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「知識」ではなく、「知恵」を持とう

日本が大変なことになりました。毎日、放射線だ放射能だといった活字が新聞の見出しに踊っています。放射線と放射能の違いは、という解説記事があちこちに出ていて、シーベルトだのベクレルだの、聞いたこともない単位が飛びかいます。

でも本当に、放射線と放射能の区別がつかないと、聞き慣れない単位を覚えないと、自分や子どもたちの健康が守れないのでしょうか?

そんなことはありません。専門家になるわけじゃないのですから、放射線の細かな知識を学ぶ必要はさらさらありません。ちょうど子どもの病気を治すのに、お母さんが、小児科のお医者さんみたいに病気の詳しい「知識」を持つ必要はないのと同じです。お母さんに求められるのは、「うちの子、病気かも」と気付く注意力、そして上手にお医者さんにかかる「知恵」です。

ここでは放射線に関する、そうした知恵の話をします。


「出たぁ~」ってお化け?

新聞やテレビでは、毎日放射能が出た出たと騒いでいます。空気中に何マイクロシーベルト、ほうれん草には何ベクレル、水道水にはいくら、今度はおさかな...。ノイローゼになりそうです。でも、「出た、出た」と騒ぐのは昔からお化けと相場が決まっています。お化けが怖いのはなぜでしょう。それは本当の姿が見えない、わからないから。出た(と思う)だけで、怖いのです。放射能もそれと同じ扱いになっています。

放射線や放射能はもっと日常的なものです。この文章を読んでいるうちにも、宇宙の彼方からやってきた放射線(宇宙線と言います。宇宙船ではありませんよ)があなたの体をもう何回も貫いています。決して驚かすわけではありませんが、そうなんです。それどころか、野菜の中にも肉の中にも全部、普段から放射能がちゃんと?含まれており、食べたら体の中に入ります。土や岩にも含まれていて、そこからも放射線が出ています。放射線や放射能が全くない世界に住みたいと思っても、地球上にそんな場所はありません。それでは、とロケットに乗って宇宙に逃げ出したら、もっとすさまじい量の放射線を浴びてしまいます。


生物は放射線のいたずらをいつも警戒している

地球上に生物が誕生して40億年以上経ったと言われています。この想像すらできない長い間、生物は放射線のいたずらにずっと悩まされてきました。この放射線のいたずらとは、DNAを切ることです。DNAというのは、一つ一つの細胞の中に一セットずつある途方もなく長い真珠のネックレス。四色の真珠があって、その並び具合で遺伝情報(こういう時にはこうしなさい、と書いてあるマニュアルみたいなもの)を伝えます。それが切れてしまったら、並び具合が分からなくなってしまって大変です。

でも、何しろ長い付き合いですから、生物は放射線がDNAを切ることを百も承知しています。そこで、いたずらされていないか、いつもチェックしています。実際、DNAの切断に気づくのはとても早くて、数分とかかりません。そして速攻でつなぎ直してしまいます。といっても直すのに数時間はかかりますが、やはり大したものです。ここで大切なことは、あなたが放射線を身近に感じられなくても、あなたの体は放射線のことをとても気にしていて、片時も忘れていないことです。


いたずらは「活性酸素」の方がひどい

DNAを切るのは、実は放射線だけではありません。30歳(35歳だったかな)はお肌の曲がり角、というCMをご存知だと思います。そのあとに、活性酸素があなたのお肌を痛めます....と続きます。そう、活性酸素もDNAを切るのです。

種明かしをすれば、放射線がDNAを切るのも活性酸素の力を借りています。活性酸素はDNAを切るはさみだと考えるといいでしょう。放射線は活性酸素を作り出してDNAを切るのです。ところが、(恐ろしいことに)活性酸素は普段の生活の中でも、「自然に」できてしまうのです。歳を取れば活性酸素の量は増えていきます。

それでは、放射線による活性酸素と、自然にできた活性酸素のどちらが多いのでしょうか。それは、浴びた放射線の「量」によって違ってきますが、日常生活では、自然にできる活性酸素の方がずっと多いのです。ここは、すごく重要なところで、あとでまた出てきます。


「出た、出た」はやめよう

放射線について考えるときには、必ず「量」に気をつけてください。これがふたつ目の「知恵」です。お化けであれば、出ただけで出たぁ〜です。しかし、放射線・放射能はもっと日常的なもの。あなたがいくら無理と言っても、地球上で、いや全宇宙で、放射線・放射能のない星なんかありません。地球は全宇宙で最も放射線を浴びることが少ない楽園なのです。そして生物は、放射線への対処法を、長~いつき合いの中で会得しているのです。

放射線・放射能を身近に感じ、話題にするときにはかならず「量」のことを考える、これが、この章のポイントです。

【放射線と子ども記事一覧】
 ・【放射線と子ども】第1章 放射線の正しい知識
 ・【放射線と子ども】第2章 放射線の量と健康への影響
 ・【放射線と子ども】第3章 放射線規制値の正しい認識
 ・【放射線と子ども】第4章 ヨウ素131と子どもの甲状腺がん
 ・【放射線と子ども】第5章 福島原発事故の健康影響はどのようにして明らかになるか?

筆者プロフィール

稲葉俊哉先生稲葉 俊哉 (広島大学原爆放射線医科学研究所 副所長)

医学博士。広島大学原爆放射線医科学研究所副所長。東京大学医学部卒。埼玉県立小児医療センター、St. Jude Children‘s Research Hospital、自治医科大学講師などを経て、2001年広島大学原爆放射能医学研究所教授。2009年から現職。専門は血液学(白血病発症メカニズム、小児血液学)、分子生物学、放射線生物学。
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