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研究室

【被災地レポート】第1回 自然災害時における母親の癒し方・子どもへの接し方

吉田 穂波 (産婦人科医、ハーバード公衆衛生大学院リサーチフェロー、
プライマリ・ケア連合学会被災地支援チーム(PCAT)派遣医師)

2011年4月 8日掲載

要旨:

震災後の現実と向き合わなければいけない母親の心のケアとしてまず必要なのは、母親が自身の不安を受け止め、悲しみ、恐れ、ショックなどの気持ちを認めることである。その上で子どもたちとどう接したら良いのかについて、自身の子どもとの体験をふまえながら、さまざまな調査研究から得られる教訓を紹介する。親の姿勢や心の安定がひいては子どもたちにとっては何よりの安定剤であると述べている。
English
震災後の現実と向き合わなければいけない母親として、医師として、私なりの工夫や気をつけている点についてお伝えしたいと思います。

震災の後、日本中の人々が、「被災地の人々のために何かしたい!」と思われたのではないでしょうか。その被害の大きさが明らかになるにつれ、とても他人ごとではいられなかったと思います。

私も震災後の10日間は、自分が無力感にさいなまれたり、罪悪感を抱いたりしていました。東京に住んでいても毎日余震におびえます。そのたびに被災地の方々に思いが飛び、「現地に行って助けてあげたいのに、どうしてここにいるんだろう・・・。」「自分だけこんなにおいしいものを食べていて、被災地の方に申し訳ない」など、子どもたちと一緒にいても、いつものポジティブ・シンキングはどこへやら、心ここにあらずという心境でした。

でも、4歳の娘が、震災から1週間ほど経ったころから、急におねしょをするようになりました。いつもはとても聞き分けの良い子なのに、ふとしたことでうまく気持ちが伝わらないと癇癪を起すようになりました。どうしたの、と聞くと、突然わっと泣き出して、「だってお母さんが怒ってるんだもん」というのです。驚きました。普段通りに話しているつもりでも、自分では気づかないうちに眉間にしわが寄ったり、言葉がきつくなっていたのかもしれません。確かに、直接被災地の助けになれない自分がもどかしくて、毎日逡巡していました。子どもには私の心がわからず、自分が何か悪いことをしたのかな、と心配していたのかもしれません。反省した私は、この子だけ抱っこひもで抱っこしたり、二人きりでお風呂に入って赤ちゃんごっこをしたり、と、大好きだよということを知らせて安心させたくて、精一杯の償いをしました。

同じようにあまりの惨状に心を痛め、将来への不安を抱える全国のお母さんたちにも、まずは自分の不安を受け止めて、悲しみ、恐れ、ショック、という気持ちを自分が抱いていることを認めてあげて欲しいと思います。母親は、つい自分のことを後回しにして家族の健康や幸せのために働こうとしますが、子どもが昼寝している時でも、夜中でも、インターネットから目をそらして一人だけになる時間を作り、「自分はどのように感じているのかな」「本当に辛かったし、怖かったよね」「よく頑張ったよ」といたわり、受け入れてあげる過程が必要です。自分を大切にしたうえで、それでは、子どもたちに対してどのように接するのがいいのでしょう。

「自然災害時における医療支援活動マニュアル」(厚生労働省科学研究費 事業 新潟県中信越越地震を踏まえた保健医療の対応・体制に関する調査研究)には子どもの言動/反応について実体験に基づくアドバイスがあります。

幼児は生活の違いやおとなの反応などによって、子どもの生活行動などに反応が出る場合がある。おとなが落ち着いた時間を持ち、話しかけたり、スキンシップをとったりすることが大切になる。一緒に遊んだり、話をしたり、抱きしめて「大丈夫」と伝える。無理に親・家族から引き離すようなことは、子どもにとっても、また親・家族にとっても不安となることがあるので注意する。

学齢期の子どもは、言葉による気持ちの表出やコミュニケーションがとれるようになるが、低学年では幼児と同様の反応がみられることもある。おとな達が忙しく働いている傍らで手伝えない子どもたちは、孤立した感覚をもったり、落ち着かない状況に陥ったりすることがある。子ども達にできる仕事作りなど、家族の一員として、子ども達も役割を見いだすことができるような参画の仕方を計画的に実施する。子ども達が安心して、安全に果たせる仕事を見出すことが必要である。子どもは何も知らなくてもよいというのではなく、何がどのような状況になっているのか、おとな達がしていることを説明することも大切である。周りの状況についてある程度理解できるため、我慢したり迷惑をかけないように気を遣ったりして過剰適応する子ども達もいる。

以上より、子どもたちを安心させる、わからなくてもいいから説明をし、誠実な態度を見せる、何か人の役に立っているというお手伝いの役割分担を与える、など、子どもの年齢によって今日からでも始められることがありそうです。母親である自分自身、子どもたちと一緒に手や体を動かし、悩んでいるひまもないほど忙しくしていた方が良いということがわかりました。

また、ボストン小児病院のウェブサイトでは、子どもにどのように震災のことを伝え、それが子どもの将来にとって害を及ぼさないようにするにはどのようにすればよいのかについて、わかりやすく解説されています。

http://childrenshospitalblog.org/talking-to-your-children-about-the-japan-earthquake/#

上記サイトの要約です。
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8歳以下の子どもたちには、できるだけシンプルに伝えるようにしてください。家族や親しい人々が安全であることにフォーカスを当て、できることはすべてなされていると伝えてください。大人は何が起こってもうまく事が運ぶように計画を立てていると教えると、子どもが安心・安全を感じさせるのに役立ちます。
8歳から12歳の子どもには、あふれるような疑問を受け止めるよう接し、世界中から支援の活動が始まっていることを知らせてあげましょう。なぜ自然災害が起こるのか、という科学的な説明をすると、より恐怖をコントロールできるでしょう。
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どこでも言われていることですが、被災地支援は震災が起こった直後の寄付だけでなく、それ以上に引き続き関心を持ち続けることが大きな力となります。また、支援の形はさまざまで、今何もできないともどかしく感じている私たちにも、いつか必ず出番が回ってきます。物足りなく感じるかもしれませんが、淡々と、自分の心を癒し、子どもたちの様子を見守りながら、それぞれの場所でがんばって行きましょう。応援をしている側が復興支援の前に疲れてしまっては元も子もありません。動じることなく被災地への支援の気持ちを持ち続ける親の姿勢が、子どもたちにとっては何よりの安定剤となるでしょう。

私も、公衆衛生の知識があって、お話をゆっくり聞いてあげることのできる医師が必要とされるその日まで、私の健康状態をメンテナンスして、たくさんの人の悲しみや苦しみの受け皿になれたら、と思う今日この頃です。

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筆者プロフィール

report_yoshida_honami.jpg 吉田 穂波(よしだ ほなみ・ハーバード公衆衛生大学院リサーチ・フェロー・医師、医学博士、公衆衛生修士)

1998年三重大医学部卒後、聖路加国際病院産婦人科レジデント。04年名古屋大学大学院にて博士号取得。ドイツ、英国、日本での医療機関勤務などを経て、10年ハーバード公衆衛生大学院を卒業後、同大学院のリサーチフェローとなり、少子化研究に従事。11年3月の東日本大震災では産婦人科医として不足していた妊産婦さんのケアを支援する活動に従事した。12年4月より、国立保健医療科学院生涯健康研究部母子保健担当主任研究官として公共政策の中で母子を守る仕事に就いている。はじめての人の妊娠・出産準備ノート『安心マタニティダイアリー』を監修。1歳から7歳までの4児の母。
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