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研究室

第12回 通級による指導に活用できる、デジタルメディアを取り入れたSST(ソーシャルスキルトレーニング)の紹介

長田 有子 (CRN外部研究員)

2017年10月13日掲載
1.はじめに

「通級による指導」とは、小・中学校において、通常学級に在籍している軽度の障害のある児童生徒に対し、その障害に応じた特別な指導を別の場で行うことを言います。週に1回程度の頻度で生徒を取り出しで教えていきます。そこでは集団性や社会性に問題のあるお子さんを対象に、ソーシャルスキルトレーニング(SST)が行われています。また少人数で視覚トレーニングや短期記憶トレーニングなども行われる場合もあります。今回は、その通級による指導にも応用できると考えられる、筆者の発達支援教室で行っているタブレットを使用したSSTの方法をご紹介します。

2.方法

筆者の教室で行っている、就学前・小学校低学年のお子さんを対象にした、タブレットを使用したSSTの例を紹介します。

10人以下のグループにて行います。参加する前にWISC知能検査を受けている、診断をもつお子さんが対象です。年齢にばらつきがあっても同じ程度のIQなので、一緒に活動が可能です。参加する子どもたちは、学校や幼稚園などでお友達とうまく遊べない、先生の話が聞けない、勝手に行動してしまう、集中が途切れて立ち歩きをしてしまう、お友達とうまく関われずに一人遊びしかしない、など社会性に問題があるお子さんたちです。

そもそもお話を聞くのが難しいお子さんたちなので、最初から大きな画面を用意しておいて、すぐにセッションを始めます。導入で恐怖心を取り除かないと、以後の参加が困難になりますので、最初は参加したくなくても、只座っているだけでもいいという環境で始めます。その後、セッション回数を重ねる度にだんだん本人がやりたくなってきて、参加するというパターンが多いです。

発達障害のあるお子さんにとって、視覚的情報の取り入れは手がかりとなりやすいので、大きな画面があると理解しやすく、また集中がしやすくなる場合があります。通級による指導に取り入れる際にも、タブレットをプロジェクタに接続するなどし、大きな画面で行うと効果的でしょう。

また、画面に向き合って座る事により「多対一」の環境(自分と画面の関係)になり、グループでのセッションであっても、集団に参加しているという苦手感をもたずにすみます。集団の中で成功体験をもった事のないお子さんにとっては、集団を恐怖に感じるので、一度でもまずは小集団の中で「できた!楽しかった!」という成功体験をもてるようにする事から始まります。細かい課題を繋ぎ合わせるセッション構造により集中を持続させ、その結果、集団の中で体験したという自信に繋がることになります。

筆者の支援教室における事例

A 君 年長 男の子  WISC検査 全検査IQ62

幼稚園ではいつも一人遊びで、うまくお友達と遊べず、何かあるといつも泣いている。

筆者の支援教室にて、1回1時間、月2回のSSTを開始、その他個人セッション1回1時間の療育を月3回受ける。

最初は構音障害もあり全く発語もなく、座っているだけであったが、全体の流れが理解できるようなってから、一対一で向き合うプログラムの参加も徐々にできるようになっていった。構音トレーニングも受けて発音の修正もなされ、徐々に発言ができるようになった。その事がさらに集団での発語に繋がり、自分から他者に語りかける言葉のフレーズを復唱するアプリによりシミュレートし、学校生活に汎化することができた。多対一のプログラムにおいては、正誤が求められないので、間違えても指摘されない事から何回も反復しやすく、その事が本人の能力を上げるトレーニングとなった。一年後には、就学後も学校の友達との集団生活を楽しめるまでに成長した。現在も療育は継続されている。

3.SSTに活用できるアプリ

以下にSSTに活用できるアプリをご紹介します。

小学校低学年向け

「多対一」環境で、グループで参加できるアプリ

  1. 「はたあげ」(指示の受け入れ:画面の指示に従って動作を行うことで、即時反応の力がつき指示の受け入れを強化する。)
  2. 「ぐんぐんきおく」(数唱課題:目と耳から入ってくる数字を記憶して入力することで短期記憶を強化する。)
  3. 「いろいろ会話」(復唱課題:言葉の使い方を学び、社会性を身につけるのを助ける。一日の流れの中で必要な会話が全て復唱できるようになっており、さらに、お友達と遊びたい時の声かけの仕方や、お友達とうまく関わるために必要な会話が収録されているので、復唱することにより本人に認識され実際の生活に応用されていくようになっている。)
  4. 「ビジョントレーニング」(視覚の追順性、衝動性の訓練、眼球運動のトレーニング)
  5. その他

「一対一」環境で、個人で参加するアプリ(この場合には、生徒一人一人が順番に前に行き、プロジェクタで投影された画面をタッチします。しかし操作は子どもの操作の同じタイミングで教師がタブレットを操作することで、子どもの動作と画面の反応をリンクさせます。)

  1. 「ハッピーペットライン」(処理速度の訓練: 板書時の目の使い方などをトレーニングすることができる。)
  2. 「モンテッソーリ式幾何学」(図形の認識訓練:形の認識をトレーニングすることができる。)

その他多数目的にあったトレーニング用アプリがあります。

上記アプリを利用したセッションの構造化

メディアを使用した「多対一」環境と「一対一」環境を取り混ぜながらセッションを進行すると、人前に立つ事が苦手なお子さんも参加しやすくなります。一人ひとり前に出て参加する事により、待つ事を教示でき、苦手な課題への参加意欲や仲間との楽しみの共有を促し、参加できたという自尊感情が自信に繋がり、学校生活に汎化させることができるようになります。集団場面における情緒が安定するとさらにお互いがやり取りするゲーム性の活動や相互性のやり取りのあるコミュニケーションの活動内容まで広げることができます。

4.デジタルメディアを取り入れたSSTの効果検証

発達障害(自閉症、知的障害)のあるお子さん(5歳から8歳まで)を5グループに分け、7、8人の小集団にて三年間SSTを行いました。

恐怖心が強く集団参加ができない、また今までに上手にお友達と遊んだことがない、トラウマをもつお子さんに対して、その原因となる聴覚記憶の強化、言葉の表出の力、視覚のトレーニングなどを取り入れた課題をアプリによって実地することができるSSTを、1回1時間、月2回行いました。

療育前後に知能検査(ビネー、WISC-IV、ITPA、乳幼児発達スケール、LCスケール等)を行いその効果を検証しました。以下はその結果になります。

アプリケーションの使用における介入前後の比較
介入前介入後
平均点標準偏差平均点標準偏差p-value
DQ/IQ64.220.688.127.5<0.001
言葉の表出59.525.984.528.4<0.001
記憶53.910.489.625.1<0.001
介入前介入後
グループ1の占める割合人数グループ1の占める割合人数p-value
指示理解35.3%12100.0%34<0.001
集団参加14.7%5100.0%34<0.001
グループ0:全くできない,少しはできる,グループ1:まあまあある,多くできる,いつもできる
Paired t-testまたは、Fisherの正確検定を実施した。

指示理解
lab_04_12_01.jpg

集団参加
lab_04_12_02.jpg

検証結果によれば、介入後はDQ(発達指数)/IQ、言葉の表出、記憶の平均点の上昇が見られ、また、指示理解と集団参加については、参加したすべての子どもたちがグループ1(まあまあある、多くできる、いつもできる)に分類されました。

上記の結果からも、デジタルメディアを取り入れたSSTの効果を見てとることができます。通級による指導においても、このようなツールを取り入れたSSTの可能性が示唆されます。

5.考察

デジタルメディアの課題を取り入れたSSTは、社会性や集団制を導くツールとして、通級による指導での活動にすることができます。療育課題として目的に合った数多くのアプリがあり、指導側も容易に取り入れることができ、授業準備の短縮にもなります。子どもに興味のある対象を活用した療育課題は、子どもにとって受け入れやすく、集中に繋がりやすく、何回も容易に実行することができるため、臨床効果を上げることができます。

筆者プロフィール

長田 有子、臨床発達心理士、認定音楽療法士、 CRN(チャイルド・リサーチ・ネット)外部研究員

アメリカバークリー音楽大学卒業、フランス国立音楽音調研究所にて研修、聖徳大学大学院博士課程卒業、成育医療センター、子どもの虹センター被虐胎児施設、調布障害児学童にてSST ・療法を行う。
日本子ども学会理事、日本小児神経学会会員、音楽療法学会会員、臨床発達心理学会会員。

調布発達支援教室 代表
NPO チャイルド・ケアリング・アソシエーション 代表理事

子どもが興味を持つ療育課題を開発、実践中。
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