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第11回 ADI-R (自閉症診断面接 改訂版)による検証と解釈

ADI-R(Autism Diagnostic Interview Revised)は自閉症の症状の評価を目的として開発された検査である。保護者が面接によりお子さんの状態を答えるものであり、子ども本人は同席しない。実施する際には、93項目の面接プロトコルを用い、質問に対してのその症状の度合いを程度(なければ0、度合いが低いほうから1、2、3)として記録し、最後に包括的にスコアリングする。スコアは a 相互的対人関係の質的異常の合計、b 意志伝達の質的異常の合計、c 限定的、反復的、常同的行動様式の合計、としてまとめる。

自閉症か自閉スペクトラム障害(ASD)かの診断は極めて難しいが(「DSM-V 精神疾患の分類と診断の手引き」が新しいバージョンになり広汎性発達障害やアスぺルガー症候群も ASD と診断されるようになり、自閉症と ASD は別の診断になる)、この検査の3項目の各スコア値により本人の特質を客観的にみることができる。また、精神年齢2才から受けることができるので、発達における情動の歪みを見極め、以降の治療の計画のために利用することできる。また保護者にとっても、養育での問題が個性としての範疇なのか、症状として捉えるものかの指針にもなり、発達段階を評価するスクリーニングツールとなる。

a、b、c の項目にはカットオフ値(病態識別値)があり、スコアがこの値を上回るとASD と診断される可能性があるとみなされる。

a 相互的対人関係の質的異常の合計、カットオフ10
b 意志伝達の質的異常の合計、カットオフ8(発語がある場合)、7(発語がない場合)
c 限定的、反復的、常同的行動様式の合計、カットオフ3

ADI-R 自閉症診断面接 改訂版によるASDのカットオフ値(病態識別値)と、各病態の平均評点(対象者36ヶ月から59ヶ月)

ASD の
カットオフ値
自閉症の平均値(n=25)言語障害・知的障害の
平均値(n=25)
a 計
相互的対人関係の質的異常
1019.004.20
b 計
意志伝達の質的異常
発語あり 8
発語なし 7
発語あり 16.33
発語なし 11.62
発語あり 5.09
発語なし 5.57
c 計
限定的、反復的、常同的行動様式
4.921.96
Lord, C., Rutter, M. & Le Counteur, A. (1994) より

42ヶ月(3歳5ヶ月)時の平均評点

自閉症
(n=8)
広汎性発達障害
(PDD)(n=13)
言語障害
(n=9)
定型発達
(n=15)
a 計
相互的対人関係の
質的異常
18.38.22.42.1
b 計
意志伝達の質的異常
発語あり 19.0
発語なし 11.9
発語あり 8.4
発語なし 6.4
発語あり 4.0
発語なし 2.2
発語あり 2.9
発語なし 1.9
c 計
限定的、反復的、
常同的行動様式
3.52.10.90.7
Cox, A., Klein, K., Charman, T., Baird, G., Baron-Cohen, S., Swettenham, J., et al. (1999)

このように、診断によるスコア値の違いが認められる。

症例

支援教室に通うお子さんの保護者を対象に、子どもの状態についてADI-Rの検査を行った。以下に症例によるスコア値を示す。

A児 7才7ヶ月男子の例
普通級に通う。学習はよくできるが、家庭での兄弟げんかが頻繁にあり、自分の要求が通らないと暴れる。ゲーム、漫画を読んでいる時には指示が耳に入らない。ASD 診断をもつ。

B児 12才7ヶ月男子の例
普通級に通う。学習につまずきがあり、友だちとの関係が悪く、いつも反抗的な態度をとる。書字に困難をもつ。 ADHD 診断をもつ。

C児 9才男子の例
支援学級に通う。指示の受け入れが困難であり、こだわりが強く、一人で活動することを好む。知的障害、自閉症診断をもつ。

ASD のカットオフ値と3児のスコア値の比較

ASD の
カットオフ値
A児のスコア値B児のスコア値C児のスコア値
a 計
相互的対人関係の質的異常
101115
b 計
意志伝達の質的異常
発語あり 8
発語なし 7
12
c 計
限定的、反復的、常同的行動様式

このように、スコア数値によって具体的にどのような情動調整不全をもつか客観的にみることができる。

また、この検査の開発者である Catherine Lord 氏は ASD の多様性について次のように言及している。「発語のない就学前の年齢期に自閉症様の症状を示すことがあるが、認知能力が成熟するにつれて、自閉症的特徴はほとんどみられなくなる。発語がある場合でも異常がみられるのが意思伝達領域のみの場合、自閉症よりも発達性言語障害に近い経過をたどる。」

以下にこの症例を示す。


D児 9才男子 支援学級に通う。発語遅く3才より療育を現在まで行う。現在の言語能力は標準内までに伸びている。広汎性発達障害の診断をもつが、現在は発達性言語障害ではないかと思われる。学習は普通級に準じる。以下にD児の2−3才時のスコア値と、現在9才でのスコア値を示す。

ASDのカットオフ値とD児のスコア値の比較

ASD のカットオフ値2−3才時スコア値9才現在のスコア値
a 計
相互的対人関係の質的異常
10
b 計
意志伝達の質的異常
発語あり 8
発語なし 7
22
c 計
限定的、反復的、常同的行動様式

このように受容性言語(言葉の理解)に重度の障害のある子どもは、なんらかの自閉症的特徴を示すことがあるとされている(Bishop & Norbury, 2002; Mawhood, Howlin & Rutter, 2000)。


また同様に発達性言語障害ではないかと思われるケースである。

E児 12才4ヶ月男子 普通級に通う。発語遅く3才より現在まで療育を行う。
当初は、年中で2語文程度しか話せず、こだわりが強く、友だちとの遊びも苦手で、書字に困難をもっていたが、現在は、問題が軽減されて、穏やかに学校生活を過ごすことができている。
広汎性発達障害の診断をもつ。長年の療育の末にスコア値は0になった。書字の苦手さは残っているが、普通級での授業に追順できているので、個性の範疇内と思われる。

ASDのカットオフ値とE児のスコア値の比較

ASD のカットオフ値4才時のスコア値12才現在のスコア値
a 計
相互的対人関係の質的異常
1014
b 計
意志伝達の質的異常
発語あり 8
発語なし 7
c 計
限定的、反復的、常同的行動様式
まとめ

これまで子どもの問題行動と呼ばれていた行為が、情動調整不全によるものと見なされるようになり、 ADI-R のような検査によって、客観的に把握できるようになった。またこれにより、どのような行為を消去していくべきか、療育上での指針も計画できるようになり、長期に渡る療育を経て症状が改善されていくことが可能になると思われる。また、発語のない就学前の年齢期に自閉症様の症状を示すことがあるが、認知能力が成熟するにつれて、自閉症的特徴はほとんどみられなくなる場合があり、発達性言語障害を自閉症と診断されている場合がある。

長期に渡る療育と SST(ソーシャル・スキル・トレーニング)は、情動調整不全を軽減させる可能性をもつといえよう。また、特に言語性に問題をもつ就学前のお子さんの場合には、認知力を向上させる療育や SST は自閉症様の行動の軽減に繋がる可能性がある。しかし、子どもによっては苦手なものを拒否したり集中が持続しなかったりするので、その子にとって興味のある、やりたくなる課題に置き換えて認知課題を行っていく技量が療育者やセラピストに必要とされるのではないかと思われる。


    <参考文献>
  • Bishop, Dorothy V.M. and Courtenay Frazier Norbury. 2002. Exploring the borderlands of autistic disorder and specific language impairment: a study using standardised diagnostic instruments. Journal of Child Psychology and Psychiatry, Volume 43, Issue 7, 917-929, October 2002
  • Cox, Antony, Kate Klein, Tony Charman, Gillian Baird, Simon Baron-Cohen, John Swettenham, Auriol Drew, and Sally Wheelwright. 1999. Autism Spectrum Disorders at 20 and 42 Months of Age: Stability of Clinical and ADI-R Diagnosis. Journal of Child Psychology and Psychiatry, Volume 40, Issue 5, 719-732, July 1999
  • Howlin, Patricia, Lynn Mawhood, and Michael Rutter. 2000. Autism and Developmental Receptive Language Disorder--a Follow-up Comparison in Early Adult Life. II: Social, Behavioural, and Psychiatric Outcomes. Journal of Child Psychology and Psychiatry, Volume 41, Issue 5, 561-578, July 2000
  • Lord, Catherine, Micheal Rutter, and Ann Le Couteur. 1994. Autism Diagnostic Interview-Revised: a revised version of a diagnostic interview for caregivers of individuals with possible pervasive developmental disorders. Journal of Autism and Developmental Disorders, Volume 24, Issue 5, 659-685, October 1994
筆者プロフィール
長田 有子、臨床発達心理士、認定音楽療法士、 CRN(チャイルド・リサーチ・ネット)外部研究員

アメリカバークリー音楽大学卒業、フランス国立音楽音調研究所にて研修、聖徳大学大学院博士課程卒業、成育医療センター、子どもの虹センター被虐待児施設、調布障害児学童にてSST ・療法を行う。
日本子ども学会理事、日本小児神経学会会員、音楽療法学会会員、臨床発達心理学会会員。

調布発達支援教室 代表
NPO チャイルド・ケアリング・アソシエーション 代表理事

子どもが興味を持つ療育課題を開発、実践中。
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