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第1回 インタビュー: 発達に障害をともなう子どもたちのための音楽療法

要旨:

本稿では発達に障害をともなう子どもたちのための音楽療法について紹介する。筆者の行う音楽療法は子どもの発達を臨床発達心理学の立場から構造化したもので、音楽を用いて学習支援の個別プログラムを作成するためのものである。音楽そのものに癒しの効果を求めるものではなく、学習活動を促すためのメディアのひとつとして音楽を活用している点が特徴で、さまざまなケースで学習活動およびソーシャルスキル習得の両面で効果が上がった事例もある。科学の進歩によって発達障害児の療法には興味深い方法が多くあり、保護者の方にも子どもたちの可能性を信じて取り組んでほしいと願っている。

長田さんは、音楽療法によって発達にともなう多様な障害をもった子どもたちの療育を行なっているそうですが、どのような成果が上がっているのでしょうか。

目に見えて結果が出るのには多少時間はかかりますが、どのような子どもでも療育による成果は現れてきます。例えば、5歳の知的な障害のある子どもは、4年間にわたるセッションにおいてIQ38(田中ビネー検査)からIQ60 へと知能指数が向上し、学年相当の漢字を記憶し、かけ算やわり算も理解し、安定した情緒を獲得しました。また、4歳時において自閉症と診断されたある子どもの症例では、津守式発達検査においてPA41、言語性1歳9か月であったのが、6歳時にこの療法を開始し、4年後の10歳時にはウェクスラーⅢの知能検査において言語性94、動作性103、全検査98にまで向上しました。ADHD、アスペルガー症候群児、自閉症児、被虐待児など、さまざまなケースで学習活動およびソーシャルスキル習得の両面で効果は上がっています。


IQの値が上がった例もあるんですね。

IQが向上するなどというと、「そんなことあり得ません」と批判する方もおられますが、最新の発達科学の研究成果を取り入れ、個人の知的能力に適応した分析を行い、適宜な療法を創意工夫するといったきめ細やかな対応が広く行なわれているわけではない現状で、「あり得ない」とまで言うことはできないと思います。

ただ、現在の知能テストだけでは推し量れない子どもの能力はありますし、また子どもの年齢や障害の程度によってテストできない場合もあります。あくまでもIQは効果を客観的に確認するためのひとつの目安として使うだけで、それがすべてとは思っていません。

私の療法はオリジナルなものではありますが、臨床発達心理学や脳神経科学の知見を踏まえたもので、決して特殊なものではなく、一人ひとりの子どもにとって無理のない課題を日々積み重ねていく地道なものです。

音楽を活用する意義はどんなところにあるのでしょうか。


聴覚の発達の起源は古くて、哺乳類が誕生した2億2000万年前の三畳紀の頃まで遡ります。トガリネズミに似た私たちの先祖は夜行性で、その頃に聴覚系が発達したそうです。聴覚の刺激は新皮質という新しい脳の部分だけではなく、古皮質や旧皮質のような原初的な脳にも働きかける力がありますから、知的な能力に障害のある子どもの療育には効果があるのだと考えています。

また、言語の習得に遅れのある子どもに言語的な教示により指導することは難しいので、言語以外のメディアを活用し、学習そのものを楽しくわかりやすいものにすることも必要だと考えています。言葉による語りかけや視覚的なものへ関心を向けるのは大変ですが、音楽というのは本人に聞く気がなくても耳に入ってきますから、学習活動の導入としての意義も大きいと思います。

長田さんの音楽療法は従来の音楽療法とは異なるものですか。


従来の音楽療法は、クライアントとセラピストとのコミュニケーション活動を中心とし、心理的関係を深めることや、運動に音楽を用いて感覚運動機能の発達を促すことや、また精神病をもつ患者をリラクゼーションさせる精神的心理療法として行なわれるものでした。しかし、私の音楽療法は子どもの発達を臨床発達心理学の立場から構造化したもので、音楽を用いて学習支援の個別プログラムを作成するためのものです。音楽そのものに癒しの効果を求めるものではなく、学習活動を促すためのメディアのひとつとして音楽を活用しているということだと思います。聴覚と視覚の統合、リズムの模倣、音楽を媒体とした文字や数概念の学習、集中力の訓練など、目的をはっきりとさせて音楽を使用しますので、曲を聞かせてたんにリラックスさせるというような使い方はしません。

療育において最も重視していることは何ですか。


発達のスピードはそれぞれの子どもによって違いますので、発達に見合った課題を行なっていくことです。そのために行動・情緒、社会的スキル、視覚領域、聴覚領域、粗大運動など5つの領域において細かいアセスメントを行なって、そのお子さんの弱い部分を明らかにし、それを補っていく課題をたくさん用意します。また、お子さんたちが楽しめないものでは課題の遂行は難しいので、さまざまなメディアを使って、子どもが興味を抱くようなプログラムを作るための工夫を重ねています。

また、私は療育の実践に関しては、音楽療法の枠だけにとどまらずに広く臨床発達課題に取り組んでいます。子どもにとっては、どんな療法であるのかということはあまり関係ありませんから、子どもの発達を支援できる方法であれば何でも取り入れます。

そのような考え方やノウハウはどのようにして開発していったのですか。


私は2000年から3年間CRNにおいて、廃校になっている小学校を使用して「子どもが無理なく興味を抱く学びとは何か」というテーマで実験教育を行ないました。そこでさまざまな試行錯誤をして、子どもたちが興味をもたないプログラムは捨てていき、興味を抱くものだけを抽出していきました。

実践の結果はレポートにして、CRN所長の小林登先生に見ていただき、ご指導いただきました。小林先生からは「知識を得るための高次機能だけではなく、本能的な情動にも働きかけることでより効果的な学びになる」というアドバイスをいただき、それが私の音楽療法の理論的なベースになっています。

また、小林先生の母子相互作用の研究をヒントに、音声/行動同調現象(引き込み同調現象)、つまり相手の語りかけのリズムに同調した身体的行動や模倣相互作用による物まねなどを臨床課題に取り入れています。

現在一般的に行なわれている療育の現状について、どのように思われていますか。


2007年4月から特別支援教育が実施されるようになり、発達障害を早期に発見し、個人のニーズに対応した支援を図ることになっていますが、早期療育における具体的な支援方法や治療方法が確立されているとは言えないと思います。また、地域による格差も大きく、支援するための外部機関や専門家が少ないという現状も問題です。
特殊学級や養護学校ではどうしても集団指導になり個別の対応が疎かになりがちですので、支援のための新しい教材や学習方法を開発し、さらに個人に対応するプロフェッショナルな教え方を確立していくことが早急な課題だと思います。

とくに問題だと思うのは、就学前の子どもたちの学習に関してはプログラムができていないことです。脳の可塑性という点からも早期に学習やソーシャルトレーニングを開始することの意義は大きいと思います。言葉の遅れなどが明らかになっていても、様子を見守りましょうということで、そのままになっている場合がありますが、課題は定型発達の子どもであったとしても無意味なものではありませんから、いち早く取り組むことが大切だと思います。

早期に始めないと療育の効果は上がらないものですか。


基本的には早期に始めた方がよいと思っています。しかし、早期に始めることだけが重要なのではありません。大切なのはその子どもの発達の度合いをきちんと調べて、その子にあったプログラムを行なうことです。いくら早期に始めても、その子どもの障害への理解や年齢への配慮が乏しく、やみくもにフラッシュカードをぱっぱぱっぱとめくるような画一的なプログラムを行なっても、統合的に発達を支援することにはならないと思います。

たとえ、遅くから始めたとしても、その子どもの発達の度合いや障害への理解をきちんと把握した上でやれば、例えば、小学校の高学年ぐらいから始めたとしても効果は上がっています。

保護者の方々にアドバイスがありましたらお願いします。


IQテストで知力の判定を受けると、それで諦めてしまう保護者の方も多いのですが、私はIQと学習能力とは別だと思っています。障害のあるお子さんたちが毎日の積み重ねでできるようになることは、一般的に考えられているよりも多いような気がしています。IQが低いからとすぐに諦めてしまわずに、その子どもにとってわかりやすい方法を見つけ出して、導いていくことが大切だと思います。特別な病気でない限り体の大きくならない子どもなどいませんよね。同じように、どの子どもも自分なりの速度ではあるけれども知力は必ず伸びると思います。

また、大切なのは身辺自立だといって、学習に興味をもたれない方がいますが、言葉や数の学習というのは決して身辺自立と無関係のものではありません。言葉や数は身の回りにあふれているわけで、日常生活の上で決して無用のものではありませんし、コミュニケーション能力や感覚の統合、集中力や記憶力とも関係しています。

科学の進歩によって本当におもしろい方法がたくさんあります。学習のみならず、人間関係や集団行動や社会性で悩んでいらっしゃる子どもさんにも適応するトレーニングがたくさんありますので、子どもたちの可能性を信じて取り組んでほしいです。子どもたちが伸びてくると、保護者の方たちも前向きになられて、子育てへの自信をもたれるようになりますので、一人でも多くの方に実践していただきたいですね。

長田有子(おさだ・ゆうこ)
米国バークリ音楽大学卒業、フランス国立音楽音調研究所研修、聖徳大学大学院博士課程後期卒業。日本で初のコンピュータミュージック学科のカリキュラムを制作し、工業専門課程にて文部科学省より認可を受け、日本電子専門学校にて主任を務める。シリコングラフィック社スーパーバイザー、多摩美術大学講師などを務め、子どものための教育ソフトを制作する。国立成育医療センターにて 発達障害の子どものための SST, 子どもの虹センターにて被虐待児における SSTセッションを実践し、現在, 調布市で個人治療教育セッション、 SSTを行っている。CRN 外部研究員。臨床発達心理士、音楽療法修士、ミュージックシンセシストディプロマ。

聞き手:木下真
フリーライター。日本子ども学会事務局長。CRN外部研究員。

<連絡先オフィス>
調布発達支援教室 (代表 長田有子)
〒182-0026
東京都調布市小島町1-21-6 アジャンタ調布411号室
電話: 042−489−7813  
メールアドレス: yuko-osada☆jcom.home.ne.jp
(☆を@にして送信してください。)

発達に遅れがあるお子さんや診断を持つお子さんに個別療法・ソーシャ
ルスキルトレーニング集団療法を行っています。

発達過程でことばが遅かったり、話し方に特徴があったり、認知や概念
形成に心配をもつお子さんにとって音楽やメディアを通した課題はとて
も受け入れやすく、お子さんの能力や発達を伸ばすことができます。3
歳健診から就学までの間に何も療法を受けられないよりも積極的に療法
の課題を行うことにより多くのお子さんが予想以上に発育を成し遂げて
います。

またお友達と遊べない・集団行動ができにくい・社会性が身につきにく
い・人の指示が受け入れられないお子さんも音楽やメディアを通した独
自に開発されたソフトを使った活動の中で視聴覚のトレーニングを受け
る事ができます。今まで理解できない視聴覚情報を受け入れられる許容
を育て注意深く聞き見て記憶する力を養うことにより、人からの指示が
受けいれやすくなり、行動を変えることができます。

支援内容

個別学習支援
ことばの療法 
ソーシャルスキルトレーニング
思春期相談 
不登校相談
ペアレントトレーニング
教師のための発達支援講座
就労のためのパソコントレーニング
病院、施設での療法と講演

知能検査
 
WISC-IIIウエクスラー式児童用知能検査第3版(5才0ヶ月から16才
11カ月まで対応)
KIDS(親御さんの記入でできる乳幼児発達検査0才1カ月から6才11
カ月まで対応)
PEP3(ノースカロライナ州の TEACCH プログラムにて使用されて
いる診断検査)
S-M 社会生活能力検査(6カ月から10才まで対応)
ITPA(言語学習能力診断検査 学習障害と教育と指導のための検査) 
その他


※調布発達支援教室ホームページ: http://caredesign.sub.jp

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ご感想やお問い合わせは、CRNの こちら までお寄せください。

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