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研究室

Laboratory

DV家族へのコミュニテイベース・ドゥーラによる周産期支援

要旨:

2009年に開催された第11回全国シェルターシンポジウム文科会「DV家族へのコミュニティベース・ドゥーラによる周産期支援」における、アンケート報告。ドメスティック・バイオレンスによる暴力の世代連鎖を断ち切るためのソーシャルマザー的役割に焦点を当てて、妊娠―出産―産褥-育児の期間を長期的、継続的にサポートすることにより、子への愛着形成を促し、健康的な母子関係の確立を目指す役割をもつコミュニティベースドゥーラを紹介。グループディスカッションを経て、日本へ導入する際の具体的な方法についても考える。

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シェルターシンポジウム分科会「DV家族へのコミュニテイベース・ドゥーラによる周産期支援」より~

2009年11月に開催された、第11回全国シェルターシンポジウムin おかやまの分科会「DV家族へのコミュニテイベースドゥーラによる周産期支援-DV・虐待予防へのソーシャルマザー-」で、ドメスティック・バイオレンスによる暴力の世代連鎖を断ち切るためのソーシャルマザー的役割に焦点を当ててドゥーラを紹介しました。このドゥーラセミナーでは、2007年12月に日本で開催された2回のドゥーラシンポジウム(三重県、兵庫県)とその後引き続いて三重県内で実施されたドゥーラに関する数回のワークショップを土台に、日本へ導入する際の具体的な方法についてのディスカッションにも重点を置きました。


全国シェルターシンポジウムは、NPO法人「全国女性シェルターネット」によって毎年開催され、当事者とDVサポートの関わる実践家・活動化・専門家が参加し意見交換できる重要な機会となっています。全国女性シェルターネットは、1998年、民間草の根のDVサポートシェルターネットワークとして結成されました。詳しくはhttp://nwsnet.or.jp/shelter/index.html をご参照ください。

分科会進行:堤順子、 水谷典子(女性と子どものヘルプライン三重)
講師:友田尋子(甲南女子大学 小児看護学 教授)、長江美代子(日本赤十字豊田看護大学 精神看護学 教授)
スライド提供:レイチェル・アブランソン(ヘルス コネクト ワン所長)、小林登(東京大学名誉教授、国立小児病院名誉院長)、荒掘憲二(伊東市民病院院長、社団法人家族計画協会『思春期保健セミナー』、思春期学会研修担当常任理事)、岸利江子(イリノイ大学博士課程修了)


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ドゥーラセミナー アンケートのまとめ

長江美代子(日本赤十字豊田看護大学 精神看護学 教授)
友田尋子(甲南女子大学 小児看護学 教授)
岸利江子(イリノイ大学シカゴ校 母子看護学 大学院卒)
堤順子  (女性と子どものヘルプライン三重)
水谷典子 (女性と子どものヘルプライン三重)


全国シェルターシンポジウムでドメスティック・バイオレンス(DV)の問題を抱える家族への周産期支援としてドゥーラを紹介しました。当日配布されたアンケートの調査結果を報告します。

全国シェルターシンポジウム in おかやま(NPO法人全国シェルターネット)
岡山県倉敷市 川崎医療福祉大学において2008年11月22、23日開催


I.分科会A-11ドゥーラセミナーの概要

・ シェルターシンポジウムの主な参加者は、シェルターネットのメンバーその他、ドメスティック・バイオレンスなどの暴力に悩む女性の支援にかかわっている人たちです。ドゥーラセミナーには21名(全員女性)の参加があり、そのうち19名からアンケートが回収されました。参加のきっかけは、ほとんど(90%)がシェルターシンポの案内によるものでした。

・ 分科会では、ドキュメンタリー映画「ドゥーラ物語:若年妊娠の支援」の鑑賞、2名のパネリストによるプレゼンテーション、そして会場ディスカッションがおこなわれました。2007年に実施した2つのドゥーラシンポジウム(甲南女子大学、2007年12月13日;日本子ども虐待予防学会、同14日)と同様の映画を鑑賞し、ドゥーラの説明には、同シンポジウムのパネラーによるスライドの一部を活用しました。その概要を簡単に紹介します。


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テーマ: DV家族へのコミュニテイベースドゥーラによる周産期支援-DV・虐待予防へのソーシャルマザー

コミュニティベースドゥーラは、妊娠―出産―産褥-育児の期間を長期的、継続的にサポートすることにより、子への愛着形成を促し、健康的な母子関係の確立を目指します。

ドゥーラとは、医療スタッフが忙しい出産の場において心理・社会的面などの非医療的な部分をサポートする非専門職の女性です。ドゥーラは継続的に妊産婦によりそって、情報提供、元気づけ、励まし、産痛緩和のための姿勢や呼吸法といったサポートによって、お産ができるだけ楽に心地よくなり安心できるように働きかけます。また、女性が自分の妊娠出産の体験にポジティブな意味づけができ、問題の解決のために本人がもつ力を最大限に発揮できるような支援をめざします。流早産や帝王切開分娩では、出産経験がトラウマになって愛着形成に影響したり、次回の出産で問題を起こしたりすることがあります。ドゥーラは、出産直後に気持ち受けとめデブリーフィング(経験を一緒にふりかえり言語化する過程で自分自身が理解できる内容に整理することを助ける)することで、これらの経験がトラウマになることを防ぎます。

妊娠がきっかけでパートナーからの暴力が始まる、あるいは悪化する傾向があることはよく知られています。DVの有無に関らず、出産は女性にとって単なる「特別な日」ではなく、その経験は永久に記憶にのこります。そしてその経験は、本人の自信、自尊心、人生観、恋愛観、子ども観に多大な影響を与え、本人、子ども、配偶者の個々の人生だけでなく家族の将来をも変えてしまうほどの影響力をもっています。DV関係にある女性の場合は、最も頼れる支援者であるはずのパートナーから暴力を受ける中での出産であることから心身ともに傷つき、それがトラウマ化して健康的な母子関係の成立を妨げる要素をたくさん含んでいます。これがデートDVを発端とする若年妊娠であれば、母親の困難はより複雑になりトラウマ化するリスクはもっと高くなります。当事者が母親の役割を学び成長していくためには、母親役割モデルとしてのドゥーラの支援は欠かせません。ドゥーラへのソーシャルマザーとしての役割に期待が大きいところです。

本ワークショップではドゥーラサポートを身近なものとして考えていただけるように、「DV当事者のお産経験」を念頭に置きつつ、グループワークで参加者自身あるいは身近な人の妊娠出産経験についてふりかえり、ディスカッションしていただきました。

・ドゥーラの役割と効果
・「ドゥーラ物語~若年妊娠の支援~」視聴
・コミュニティベースドゥーラの役割と効果
・家族間の暴力とドゥーラ
・グループディスカッション
・どうやってドゥーラサポートを実現するのか?


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II. 分科会の評価

ドキュメンタリー映画「ドゥーラ物語:若年妊娠の支援」は参加者の89%(19名中17名)が「とても良かった」または「良かった」と回答し、昨年のドゥーラセミナーと同様に全体的に高い評価を得ました。主な映画の感想を以下にまとめました。

自由記述の主な内容は、表1と表2のように、映画から受けた印象が感情として表現されたことばと、映画を見てドゥーラの存在をどのように捉えたか(認識したか)についての記述についてまとめました。表内は、意味内容を伝える最小限の単位で直接引用しています。19名の短い自由記述の分析ではありますが、映画は愛着形成、不安の軽減、安心感といったテーマを伝えています。また、本シンポジウムの目的から、女性支援に関っておられる参加者が大半であると思われます。そのような参加者の方々から、"産むという選択肢の上にある女性支援"、"DV環境からくる妊産婦の孤独や不安の軽減"といった内容が挙げられていることから、ドゥーラがDV家族支援に貢献できるという可能性を伝えることができたと考えられます。

表1 感情表現として

・ はじめてドゥーラまたは妊娠期間から分娩産後までの具体的な支援を知った発見
→すばらしい、大変そうだが良い仕事
・ もっと知りたい
・ ドゥーラの負担が心配


表2 ドゥーラについて認識したこと

・ 愛着形成の再構築をするチャンスの可能性がある
・ 赤ちゃんとのよい関係を通して夫との安全な関係を構築できる
・ ドゥーラの存在が孤独からくる妊産婦の不安を軽減し、親身な関わりが安心感を与える
・ 素晴らしいが、支援者の負担が大きいので、続けられるか心配
・ 妊娠出産の不安、DVなど環境要因のある人に必要
・ 産むという選択肢の上にサポートがある
・ 他人事ではない、女性だからできることは、たくさんあると再認識した
・ 女性が女性を支援するという考えを広めることが重要



分科会講師のプレゼンテーションについては、77%(18名中14名)の参加者が「とても良かった」または「良かった」と評価しました。けれどもコメントは"わかりやすくてよくわかった"という内容から"話のペースが早い"、"言葉の意味がわからずとまどった"という意見と分かれました。全体の時間が2時間半と昨年のセミナーより少なかったことにくわえ、DVに焦点をあてたため、ドゥーラを理解していただくために必要な情報を十分提供できていなかったと思われます。

会場ディスカッションは「とても良かった」「良かった」と回答した人は61%(18名中11名)にとどまりました。自分の出産体験について話す機会がえられたことや情報交換の場にできてよかったという一方で、時間が短くて内容が深まらなかったという参加者のコメントから、理由はやはり時間不足が考えられました。


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III. ドゥーラについて

?ドゥーラという言葉を知っていましたか?
参加者の68%(19名中13名)が「今回初めてドゥーラという言葉を知った」と答えました。「もともと詳しく知っていた」と回答したのは1名「言葉は聞いたことがあるが詳しくは知らなかった」が3名(16%)でした。昨年セミナーと同様に、参加者の大半はこれまでドゥーラということばを聞いたことがありませんでしたが、一部の参加者はセミナー前からドゥーラに関心をもっていたことがわかりました。


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?日本でドゥーラサポートは必要だと思いますか?
この質問に対しても昨年のセミナーと同様に79% (19名中15名)が「必要だと思う」と回答し、必要ないと答えた人はいませんでした。


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「必要と思う」理由は、虐待予防と世代連鎖を断ち切る、若年とくに10代の母親への支援、孤立させない支援、望まない妊娠、母親代わりのサポートをドゥーラが提供できるという内容があげられました。しかし、国が女性へのメンタルサポートの必要性を認めていないので「必要だが無理」、行政主導になると民生委員や女性支援グループへの負担が増える結果になるので「わからない」という回答があり、ドゥーラ活動の必要性は感じていても、導入する日本の環境が準備不足であることへの懸念が感じられました。


IV. 日本にドゥーラサポートを導入する場合

IV-1) 対象者
日本でドゥーラサポートを必要としている集団は、「虐待・被虐待暦のある女性(19名中17名)」「家族の支援が十分でない女性(同17名)」「若年妊婦(同16名)」、「母子家庭(同15名)」「胎児異常を告知された妊婦(同13名)」「貧困層の女性(同13名)」などが多く票を集めました(複数回答)。シェルターシンポの特性からプレゼンテーションがDV家族の周産期支援に焦点が当てられていたことが結果に反映されていると考えられます。他には「外国人(同11名)」「妊婦健診を受診していない女性(同11名)」「高齢出産(同10名)」「流早産のリスクのある女性(同10名)」「健康上のリスクのある女性(同10名)」などについて聞きましたが、いずれについても昨年のセミナーと同様、多くの参加者がドゥーラサポートの対象となるべきと回答しました。また、上位にあがった虐待・被虐待、若年妊娠、胎児異常があると告知されたというような状態にある妊婦は「自分の妊娠に混乱しているから」サポートが必要という考えがあることもコメントから伺われました。さらに、流早産のリスクのある女性や健康上のリスクのある女性についても必要性を感じるが「病院の役割」という意見が報告されていることから、医療につながっていないという側面からドゥーラの役割をとらえた参加者もいました。

特にどのような人々にドゥーラのサポートが必要だと思いますか?(複数回答)(n=19)

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V. 考察・まとめ

ドゥーラについて今回初めて知った参加者が大半でしたが、ドゥーラの活動の必要性についてはその必要性を十分理解していただけました。また、グループディスカッションでは情報交換、自分のことを語る、自己の振り返り、という機会になったことからポジティブなフィードバックをいただきました。さらには今まで当たり前と思ってきた出産が実はとても個別の価値ある仕事であるという気づきから女性のエンパワメントにもつながったようでした。セミナーはおおむね成功と考えることはできますが、やはり時間配分やプレゼンテーションのペースなどの課題は残りました。昨年のシンポジウムと構成は似ていますが、パネリストは2名と少なく、シンポジウムのテーマも児童虐待ではなく親密なパートナーとの間の暴力が焦点であり関連はあっても違いがあります。さらに、アンケート回答数は19名と少なく、単純に比較することはできませんが、ドゥーラを理解していただくための導入部分とDV家族になぜドゥーラが効果的な周産期支援を提供できるかという説明には2時間半では時間が不足していたと思われます。

今回はプレゼンテーションの最後に、日本におけるドゥーラサポートの導入方法について触れましたが、そのことでドゥーラの導入を具体的にイメージした意見が報告されていたように思います。今後のワークショップでは、十分な時間的を確保し、ドゥーラの理解を得たうえで具体的な導入方法を示してイメージをもちディスカッションできるような構成を考えたいと思います。


謝辞

今回のセミナーにお越しくださった方々と、開催を支えてくださったすべての皆様に心からお礼を申し上げます。(順不同)

全国シェルターシンポジウム
女性と子どものヘルプライン三重
スライド提供
小林 登 先生:東京大学名誉教授 国立小児病院名誉院長
荒堀憲二 先生: 伊東市民病院院長
レイチェル・アブラムゾンさん: 開発元Health Connect One所長

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