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CRNトークセッション「子どもは未来である~子どもの夢を育むために~」後編②

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CRNが誕生したのは1996年。1995年1月の阪神淡路大震災でインターネットの重要性が認識され、同年11月にWindows95が発売され普及に拍車がかかった頃ですが、それを利用して研究所を作ろうという発想はほとんど誰ももっていない時代でした。しかし、ノルウェーで世界各国の研究者と子どもの危機について論じあってきたばかりの小林登氏は、「研究所を作るならば日本国内にのみ向けた、閉じたものにしたくない」という思いがありました。そこで、世界との接点を広げながら発展させられるサイバー研究所を構想します。そうした中で、石井威望氏のご指導のもと誕生したCRNは、今年で20周年を迎えます。
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「IoT」の環境で生きる子どもの未来を見通す

小林 CRNではネットにおける配信だけではなく、中国の研究者を招いたり、リアルな場での交流をうまくネット配信と組み合わせる活動もしている。

石井 ライブは適切に使う。あと通信もフルに使う。それから手書き文字ももちろん使う。オールマイティというやり方が、かえってマイナスを生むかもしれないので、複数の手段を併用することが大切ですね。

小林 メディアによるつながりとリアルな場でのつながりを対立としてとらえる必要はないのかもしれない。実際子どもたちが複数のメディアを、実に巧みに使いこなすのには驚かされるね。

石井 子どもたちがどうやっているか。ちょっとご参考までに総務省のある調査を紹介します。赤ちゃんのそばにスマホを置いておくと、赤ちゃんが触るわけ。これが0歳児でおよそ1割。これが小学校高学年になれば、7~8割は触っているわけです。

また、お兄ちゃんがいると、触る率が倍ぐらいになるのです。0歳児で2割触っているのですよ。これは僕、びっくりしましたね。こんなに触っているのかと。

僕が一番気にしているのが、小学校の「反転授業」において、子どもたちに事前に配付したりする、ネットを通じてやるコンテンツを誰がつくっているかということ。これは教師なのですね。しかも、時間長は5、6分なのです。5、6分ということは、始終コンテンツをつくっていないと間に合いません。小学校の先生はつねにそのトレーニングをやっているのですね。これによって先生が変わってきている。子どもが変わるのはもちろんだけど、それをリードしていく先生が、いろいろなことを経験して変わってきている。エントレインメント・コンシェルジュみたいな能力をもち出しているわけ。

榊原 個別であるし、かつインタラクティブで、ひとり一人の子どもの成長とかかわるという意味では、一斉授業ではないのですよね。

石井 一斉授業はあってもいいけど、こういう個別対象のものがいままでなかった。それを、これからどうするのかという問題がありますね。

いま「IoT」と言われているでしょう。Internet of Thingsとは、コンピュータなどの情報・通信機器だけでなく、世の中に存在するさまざまな機器に通信機能をもたせ、インターネットに接続したり、相互に通信することにより、自動認識や自動制御、遠隔計測などを行うこと。これをやらない企業は存在しないというぐらい。こういう社会に、子どもたちが参加していく。そして高齢者になっても活用する。このような未来の環境をCRNとしてどう見通していくのかというのは、ひとつの社会の要請かもしれませんね。

インターネットというのはいままで人対人だったのですが、それが物に直結し始めた。ドローンなんかもそうですよね。ドローンというのは要するに物でしょう。それをインターネットで動かしている。それらがこれからの21世紀の産業に直結し、子どもたちはその環境で生きるようになる。そのような環境は、国内にいようが、海外にいようが、どこにいようとあまり変わらない。

そのように最新技術を使いこなすことが、いまだったらみんなスマホを持っているのだからできるはず。それとともに、ライブで、リアルな場所に行ったり、人に会ったり、郵便局の郵便配達屋さんじゃありませんけど、そういう活動もやった方がいい。ヒューマン・キャピタル、ソーシャル・ブレインズをもった脳のシステムもちゃんとつくる。

榊原 子どもが身近なものとして自由にメディアを持ち歩いて使うというのは、人間の200万年の歴史の中で初めてですよね。スマホは3歳児でも持ちながら見られる。こんな環境は初めてだというので、日本の小児科の一部の人たちは危ないと言い始めている。スマホと子育てを切り離そうとしているのですね。ですけど、アメリカの小児科学会は全く違う反応をしていて、「わからないこともあるけれど、この中に未来があるかもしれない。大事なのは使い方だ。研究しなくては」ということで、すごく前向きなのです。

石井 昔からそういう議論はありました。最近、電車に乗ったら、年寄りがいても席を立たないやつがいる、あれはコンピュータのせいだなんてね(笑)。

榊原 かつては最近の子どもの礼儀が正しくないとか、子どもがボーッとしているのは、すべてテレビのせいだと言われた。それはそうじゃないらしいと言われて、解決したのですが、今度はスマホが言われている。新しく出たものに対する考え方で、人間が二通りに分かれるかなと思ったりします。

石井 だって、生まれたときから、0歳児があれだけ触っているのをやめろというのは、もう不可能ですよね。それをうまくガイドするにはどうしたらいいか。さきほど言った学校の先生が5分、10分のコンテンツを一生懸命つくっているところが一番ポイントで、そういう努力をしていければいいと思う。

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ピンチを乗り超えることで新たな世界が見える

榊原 CRNも、基盤を今までのPCからモバイルにも対応するようにしてきています。内容、コンテンツもよくして、リアルな場でのイベントも一生懸命やっているのですけど、所長として、次はどうしようかなと思っています。

石井 ひとつ考えなくてはいけないのは、日本は少子化により人口減少が進んでいるでしょう。このままいくと、総人口は8,000万人ぐらいになるのです。「それでいいじゃないか」となってきましたね。だって、終戦のときだって7,000万人ぐらい。もっと前は4,000万人ぐらいだったから。

高齢化に関しても、中国を初めとして、世界中が高齢化していくわけ。何も日本だけが少子化や高齢化で割を食って苦しんでいるわけではなく、全部グローバルな問題。

榊原 高齢化でいうと、むしろ先進国になり得るのですね。うまく高齢化に対応すると、世界のモデルとなりえる。

石井 人類全体の問題になっているのを、ちょっと先取りしてやっていると思えばいい。

榊原 少子化については、子どもの研究にかかわる人たちは、みんなネガティブに言っていますけど、私は少子化になることを前提にいろいろ考えたほうがいいのではないかと思っています。そういうふうに考え方をシフトしていった方がいい。

今日お話を聞いていて思ったのは、CRNは流行している"先進的"な子どもの問題についてやるだけではなくて、"先見的"な、つまりいまはまだわかっていないことを見つけていく必要があるのだろうと思いました。先生のお話を聞いて、まだ、そういうことがいくらでもあるのだという感じがしてきました。

石井 嫌というほどあります。チャンスですね。前のやつが全部ダメになってきていて、限界が来ているから、どんどん改革へのドライブがかかってきている。

榊原 "先見的"というのは今日のキーワードですね。CRNも20年経って、もうやれることはすべてやったと思っていましたけど、大きな間違いでしたね。まだまだ......。

司会 ピンチをチャンスに変える、1980年代の大平総理のときもそうでしたが、オイルショックからエコが生まれたように、これからいろんなことが多分起きてくるのでしょうが、少子化や高齢化という一見ピンチの出来事が逆に新たな世界をつくっていく可能性があるということでしょうか。

石井 そういうきっかけがないと、人間やらないよね。お尻に火がついたことを改革のドライブと考えればいい。やらなきゃもうじり貧だよという危機感でやらない限り、どうしても元気は出ないのではないかな。

司会 小林先生、皆さんのお話をお聞きになって、CRNの今後に関して、最後、一言いただけますでしょうか。

小林 チャイルド・リサーチ・ネットはひとつの点みたいな研究所だよね。でも、そういうものが果たす役割が大きくなる時代が来ると思う。その準備をしておいて、機会を見てパッと活動を広げられるようにしたいというのが、僕の現在のひとつの思いだな。

子どもにとって必要なものを提供できれば文句はないけれど、そういうことにとらわれ過ぎると、従来のものの考え方から出られなくなる。今日の石井先生の考えにあるような人口動態、社会構造、産業や科学技術など、もっと大きな視野を踏まえて広く活用できる研究所にしていく必要はあると思うな。

それと、ヒューマン・ネットワークという話が出たが、人間はいろいろな情報によって脳の心と体のプログラムを働かせている。ひとつは「意味情報」であり、もうひとつは「感性情報」だと思う。子どもにとって大切なのは、「感性情報」の中でも「優しさ」の情報だと思う。優しさの情報は、子どもの心を沸き立たせる格別な力がある。子どもに提供する情報は、優しさの豊かな情報であるべきだということを、これからも心において活動していくべきではないかな。


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