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所長ブログ

就学時の発達障害の健診強化の目的は何か?

榊原 洋一(CRN所長、お茶の水女子大学名誉教授、
ベネッセ教育総合研究所常任顧問)

2017年9月 1日掲載
文科省が、小学校就学時の発達障害の発見のための健診を強化するという方針を打ち出したというニュースがありました。

なぜ、就学時の発達障害の発見を強化しなければならないのでしょうか?

発達障害は早期発見、早期対応が重要であり、就学後に気づくより就学時に発見したほうがよい、という理由によるものとされており、本ブログをお読みの多くの方々も、その通りではないかと思われると思います。

私の疑義は、なぜ就学時に発見しなくてはならないのかということです。発達障害は、その種類によりますがおしなべて、学校などでの人間関係や集団生活あるいは学習において、その症状が顕在化します。就学後の学級で、様々な困難が出現し、治療や療育が行われたり、教育的な「合理的配慮」が行われるというのが一般的な道筋です。もちろん、就学前から発達障害の特徴が明らかになり、就学時点、あるいはその前から、特別支援教室や特別支援学校への就学が考慮されることもあります。

就学時健診で発達障害の見立てが行われるのと、就学後に見立てられることの差はどこにあるのでしょうか。もちろん時間的には就学時健診で見立てが行われるほうが少し早いのですが、その時間的差はそれほど大きいとは思われません。就学時健診という比較的短時間のアセスメントと、就学してからの学級での行動の観察では、後者の方が明らかにより細かな見立てができると思います。

就学後の教室での行動の様子から、専門家による見立てに進んでも良いはずです。就学後に診断がついたら、そこで対応(合理的配慮)を行えば良いのです。

これは私の憶測ですが、就学時に発達障害を診断して、早いうちから「適切な対応」をするというのは、発達障害と見立てられた子どもを、特別支援教室ないし特別支援学校に就学させるということなのではないでしょうか?

すべての学校は、発達障害の子どもに「合理的配慮」をすることがすでに求められているわけですから、発達障害の見立てを就学時にこだわって行うことの合理的な理由は、私には見えません。

以前、オランダの学校教育に詳しいリヒテルズ直子さんと、ある会合でご一緒したことがあります。私はそこで、「発達障害の告知」というテーマでお話をさせていただきました。私の話を聞いたリヒテルズさんは、不思議そうな顔をしながら次のように質問されました。「どうして告知が必要なのですか。私には全く理解できません」と。

発達障害の告知とは、あるお子さんに発達障害の診断をしたときに、親だけでなく、担任の先生や本人あるいは同じクラスの子どもとその親に、診断名ないしは子どもの特徴を伝えることを言います。

日本では、発達障害の診断によって、その子どもを通級教室に紹介したり、時には普通学級から特別支援学級、特別支援学校への転校をしてもらうことがあるので、その際に告知は必要になると、私は説明しました。

オランダでは、子どもの発達障害の有無にかかわらず、親の希望で異なった種類の学校を選ぶことができます。日本の特別支援学校のような学校もありますが、それも親が自由に選べるといいます。そしてインクルーシブ教育が行われているので、発達障害の有る無しに関わらず、希望した学校に就学できるのです。当然、普通クラスに発達障害の子どももおり、子どものニーズにあった合理的配慮のもとに教育が行われるのです。

リヒテルズ直子さんが、「なぜ告知が必要か分からない」と言われたのは、オランダでは告知の有無にかかわらず、子どもに発達障害の行動特性が見られれば、学校はその特性に準じた教育を(親が発達障害について教師に告知しなくても)行うことになっているからだったのです。

さて「就学時」に発達障害の見立てを行うことの意味について、読者の皆さんはどのように思われますか?

筆者プロフィール

sakakihara.png榊原 洋一 (さかきはら・よういち)

医学博士。CRN所長。お茶の水女子大学名誉教授。ベネッセ教育総合研究所常任顧問。日本子ども学会理事長。専門は小児神経学、発達神経学特に注意欠陥多動性障害、アスペルガー症候群などの発達障害の臨床と脳科学。趣味は登山、音楽鑑賞、二男一女の父。

主な著書:「オムツをしたサル」(講談社)、「集中できない子どもたち」(小学館)、「多動性障害児」(講談社+α新書)、「アスペルガー症候群と学習障害」(講談社+α新書)、「ADHDの医学」(学研)、「はじめての育児百科」(小学館)、「Dr.サカキハラのADHDの医学」(学研)、「子どもの脳の発達 臨界期・敏感期」(講談社+α新書)など。
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