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少人数クラスの方が大人数クラスより本当に良いのか?

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私は現在も週に3回、複数の病院で小児科の診療を行っています。風邪や下痢といった子どもによくある病気も診ていますが、患者さんで一番多いのが、注意欠陥多動性障害や自閉症などの発達障害の子どもたちです。

発達障害には、注意欠陥多動性障害や自閉症の一部のように、薬による治療が効果的なものもありますが、多くは薬だけでは治療できません。そのため日常生活や学校生活上の困難に対する様々な助言も私の重要な仕事になります。

就学に関する相談をよく受けますが、普通学級、特別支援学級(学校)のどちらが良いのかという相談に次いで多いのが、主題の少人数クラスか、それとも普通の大人数クラスのどちらがいいのか、という相談です。

実際には、少人数クラスと大人数クラスを対等に並べてどちらが良いのか、という質問ではなく、「地元の学校では大人数クラスなので、少人数クラスを特徴としている別の学校に通わせるべきではないか?」という聞かれ方をされます。

その背景には、少人数クラスの方が、先生(教師)の眼が行き届き、丁寧な指導をしてもらえるという「一般常識」があるようです。専門家による発達障害の成書にも、そのように書かれていることが多いようです。また、発達障害の子どもは、普通学級より特別支援学級(学校)の方が良いという考えの最大の理由も、生徒数が少ないのでより丁寧に指導してもらえる、ということです。

私は必ずしもそうではない、と常々考えています。そして、上記のようなご相談に対してしばしば「大人数のクラスの方が良いと思います」とお話ししています。

理由はいくつかあります。

第一に、大人数のクラスのほうがそこにいる子どもたちの豊かな多様性に接することができることです。子ども本人にとってストレスとなるような個性の子どももいる反面、共感性が高くコミュニケーション能力の高い子どもたちがいる確率が高くなります。子どもは言葉や、人間関係の基礎を、子ども同士のかかわり合いの中で身につけてゆきます。親が使わない言葉回しを、教師からではなくクラスの子どもたちから身につけてゆくのです。また子どもの集団の中のローカルルールや、独特の符丁(スラング)も、集団の中にいることで身に付いてゆくのです。親や教師にとっては「変な言葉遣い」であっても、子ども集団の中では、それを使うことが仲間であることの証なのです。

第二の理由は、最初の理由の裏返しになりますが、教師の眼の届かない自律的な時間が多くなることです。どうしても上下関係となる教師と児童生徒の関係は、一方通行になることが多いのです。理由はどうあれ、教師の意に沿わない行動が多い子どもは、大きなストレスを感じるようになります。教師も他の児童生徒と同じく個性をもった人間です。クラスの中で仲のよくない子どもができるのと同様に、子どもと教師の関係が悪化することがあるのです。実際私が診ているお子さんの中には、子どもの行動が不適切なのではなく、教師との関係性の問題で悩んでいる子どもがいます。少人数クラスでは、教師と児童生徒の関係の悪化は致命的になります。大人数であれば、そうしたリスクは少なくなるのです。

第三の理由は、共感性のあるクラスの子どもたちが教師と恊働して、問題を抱えてしまった子どもに対応してゆくことができるということです。教師と意思疎通ができない子どもがいると、その子どもの意図を教師以上に理解し、教師と子どもの仲立ちをするような子どもが実際いるのです。私の診ている子どもの中にも、そうした子どもにサポートされている子どもがいます。「お友達が助けてくれるんです」という言葉を母親からよく聞きます。

少人数の方がよいという考え方は、子ども目線ではなく大人(教師)目線から出てきた考え方なのではないでしょうか。担当するクラスの一人一人の子どもの個性や問題点を把握したい、という責任感に裏付けされた考え方かもしれませんが、教室は当該の子どもと教師の関わりの場所であるだけでなく、子ども同士の多様な関わりの場であることを考えれば、大人数クラスの方が少人数より勝っている部分もあるのではないでしょうか。

筆者プロフィール
sakakihara.png榊原 洋一 (さかきはら・よういち)

医学博士。CRN所長。お茶の水女子大学名誉教授。ベネッセ教育総合研究所常任顧問。日本子ども学会理事長。専門は小児神経学、発達神経学特に注意欠陥多動性障害、アスペルガー症候群などの発達障害の臨床と脳科学。趣味は登山、音楽鑑賞、二男一女の父。

主な著書:「オムツをしたサル」(講談社)、「集中できない子どもたち」(小学館)、「多動性障害児」(講談社+α新書)、「アスペルガー症候群と学習障害」(講談社+α新書)、「ADHDの医学」(学研)、「はじめて出会う 育児の百科」(小学館)、「Dr.サカキハラのADHDの医学」(学研)、「子どもの脳の発達 臨界期・敏感期」(講談社+α新書)など。
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