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子どもとデジタルメディア 日本はガラパゴス化するか?

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刺激的なタイトルですが、最近の私の正直な気持ちです。こんな気持ちをもつようになった直接のきっかけは3つあります。

以前から日本社会では、小さな子どものデジタルメディア使用に、懐疑心を抱く意見が強くありました。小児科医の団体のなかには、子育て現場からスマホやタブレット使用をできるだけ少なくしてゆこう、というキャンペーンを行っているものもあるくらいです。子どもを取り巻く新たな環境の出現に対して、子どもへの影響を注意深く見守ってゆくことは大切ですが、まだ明らかな事実がないのに警告を発することを、科学的な事実に基づいて行動する専門家の団体がおこなうことが適切かどうか、日頃疑問に思ってきました。

そんな私が、タイトルのような気持ちをもつようになった第1のきっかけは、CRNの名誉所長である小林登先生の後を引き継いで、デジタル絵本の国際賞を授与する団体の審査委員をお引き受けしたことでした。以前、国内の絵本の専門家を育てるカリキュラムの委員をしたことがありますが、絵本の専門家を育てるというその団体の主旨には、デジタルメディアの普及を憂える意見が表明されていました。つまり、(紙の)絵本の普及で、デジタルメディアの(悪い)影響から子どもを護りたいといった主旨だったのです。ところが、このコンテストで実際に世界中から何百点も応募されるデジタル絵本を初めて見た時に、さまざまなインタラクティブ(相互作用的)な工夫のこらされたデジタル絵本の美しさに感動しました。世界中の絵本作家たちが、紙の絵本では実現できない動きや音だけでなく、子どもや親が実際に画面に触ることによって、絵本の世界に関わってゆくことのできる仕組みを豊かな美術性と両立させているのです。絵本が提供する静止した視覚情報だけでなく、動画や音声、そしてインタラクティブな情報が提供できるデジタル絵本には、子どもの発達に資する大きな可能性があると思いました。

さらに、2つ目のきっかけとして、日本のデジタルメディアに対する概して後ろ向きの姿勢を強く感じさせる経験がありました。中国の貴陽という内陸部の都市で開催された、メディアと教育のシンポジウム「ネット時代の子どもとメディア」に参加したことです。まだ3回目という日の浅い学会が主催したものですが、中国の教育の専門家と、デジタルメディアの開発者や研究者が、デジタルメディアの教育における潜在的な役割について熱い議論を交わしていました。シンポジウム初日の夕方には、幼児教育専門家と、デジタルメディアのアプリの制作者などによる自由討論会が開催され、例えばアプリの制作者が、子どもの学習への意欲を増すようなアプリの内容について提案し、発達心理学や教育学の専門家と熱心に議論を重ねていました。また教育におけるデジタルメディアの実践研究の報告も行われ、中国におけるこの課題への高い関心がうかがわれました。テレビやゲームというと、子どもの学習を阻害する要因ととらえる風潮のある日本とは大きな差があると感じました。

このブログを書くきっかけの3つ目は、シンガポールの幼児教育者学会が、今年の秋に発表する予定の、幼児教育とコンピューターテクノロジーに関する立場表明(Position Statement)の草案を読んだことです。草案の内容については、まだ公にされる前なのでご紹介することは控えますが、その結びに書かれていた文章に、シンガポールの幼児教育の先進性がはっきり示されていると思いました。

「私たち(幼児教育者)には2つの選択肢しかありません。1つは新しい形態のテクノロジーに圧倒され、恐れおののき、そして無力化されてしまうという選択肢であり、もう一方は新しいテクノロジーを有利に、私生活や仕事を助ける強力な道具として使いこなすという選択肢です。」

こうしたアジア諸国のコンピューターなどの新しいテクノロジーと向かい合う姿勢を見るにつけ、日本が近い将来ガラパゴス化してしまうのではないかと心配になります。

筆者プロフィール
sakakihara.png榊原 洋一 (さかきはら・よういち)

医学博士。CRN所長。お茶の水女子大学名誉教授。ベネッセ教育総合研究所常任顧問。日本子ども学会理事長。専門は小児神経学、発達神経学特に注意欠陥多動性障害、アスペルガー症候群などの発達障害の臨床と脳科学。趣味は登山、音楽鑑賞、二男一女の父。

主な著書:「オムツをしたサル」(講談社)、「集中できない子どもたち」(小学館)、「多動性障害児」(講談社+α新書)、「アスペルガー症候群と学習障害」(講談社+α新書)、「ADHDの医学」(学研)、「はじめて出会う 育児の百科」(小学館)、「Dr.サカキハラのADHDの医学」(学研)、「子どもの脳の発達 臨界期・敏感期」(講談社+α新書)など。
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