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おんぶ再考

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昔はおんぶは日本のどこでも良く見られましたが、最近はほとんど見ることがなくなりました。代わりに、子どもの顔をみることができる対面抱っこが推奨されています。

私はひそかに、おんぶには子どもの社会性を涵養する効果があると思っていますが、江戸時代に子どもをおんぶする母親や父親、あるいは年長の兄弟を見た、ヨーロッパやアメリカの知識人は、大いに驚き、感激しています。彼らの残した文章を読むと、単に驚いただけでなく、そのおんぶの優れた効用にも気づいています。

大森貝塚の発見で有名なモースは、1877年に来日し、海洋生物の研究をしています。彼の日本での生活を書いた「日本その日その日」(東洋文庫)では、当時の日本人の生活の様子の生き生きとしたスケッチを残しています。彼のおんぶに関わる文章を紹介しましょう。

「この子どもを背負うということは、至る処で見られる。婦人が5人いれば4人まで、子どもが6人いれば5人までが、必ず赤坊を背負っていることは誠に著しく目につく。(中略)赤坊が泣き叫ぶのを聞くことはめったになく、又私は今迄の所、お母さんが赤坊に対して癇癪を起こしているのを一度も見たことはない。私は世界中に日本ほど赤坊のために尽くす国はなく、また日本の赤坊ほどよい赤坊は世界中にないと確信する」(同書11ページ)

「いろいろな事柄の中で外国人の筆者たちが一人残らず一致することがある。それは日本が子供たちの天国であるということである。」(同37ページ)

「小さな子供を一人家に置いて行くようなことは決してない、彼等は母親か、より大きな子供の背中にくくりつけられて、とても愉快に乗り廻し、新鮮な空気を吸い、そして行われつつあるもののすべてを見学する。日本人は確かに児童問題を解決している」(同69ページ)

このようにモースは、こちらが恥ずかしくなるくらい、日本のおんぶを称賛しています。

モースだけでなくほかの外国人も、おんぶに大きな感動を覚えたようです。イギリスのジャーナリスト、アーノルドは "Seas and Lands" の中で、おんぶによって「あらゆる事柄を目にし、ともにし、農作業、凧あげ、買物、料理、井戸端会議、洗濯など、まわりで起こるあらゆることに参加する。彼らが四つか五つまで成長するや否や、歓びと混じりあった格別の重々しさと世間智を身につけるのは、たぶんそのせいなのだ」と述べています。

子どもの社会性の発達のなかで重要な役割を果たしている行動に「共同注視」(ジョイントアテンション)があり、発達心理学の重要な研究対象になっています。アーノルドの指摘は、まさにおんぶによる共同注視が、子どもの社会性の発達を助けていることの描写に異なりません。

私は、単なる郷愁としてだけなく、子どもの社会性発達の大切な場を提供する子育て方法としておんぶがあるのではないか、とひそかに思っています。
筆者プロフィール
report_sakakihara_youichi.jpg榊原 洋一 (CRN所長、お茶の水女子大学副学長)

医学博士。CRN所長、お茶の水女子大学副学長。日本子ども学会理事長。専門は小児神経学、発達神経学特に注意欠陥多動性障害、アスペルガー症候群などの発達障害の臨床と脳科学。趣味は登山、音楽鑑賞、二男一女の父。

主な著書:「オムツをしたサル」(講談社)、「集中できない子どもたち」(小学館)、「多動性障害児」(講談社+α新書)、「アスペルガー症候群と学習障害」(講談社+α新書)、「ADHDの医学」(学研)、「はじめて出会う 育児の百科」(小学館)、「Dr.サカキハラのADHDの医学」(学研)、「子どもの脳の発達 臨界期・敏感期」(講談社+α新書)など。
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