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復習の鬼 続き

前々回このブログで復習の鬼について書きましたが、何人かの方から好意的なコメントをいただきました。教育については素人ですが、好意的なコメントに力を得て、もう一つ教育について日頃から考えていることを書こうと思います。 的外れかもしれませんが、読んでいただければ幸いです。

それは英語教育に関することです。でも、現在大きな関心の的となっている英語の早期教育に関することではなく、中学校以降の学校での英語教育に関する私見です。

私が中学生の頃うけた英語教育と、現在の英語教育では、いくつかの点で様変わりしているように思います。第一は、ネイティブの英語の発音を耳にする機会が大幅に増えたことです。実際のネイティブの教員だけでなく、インターネットなどによるインタラクティブな教材でネイティブの発音を簡単に聞くことができるようになっています。私が中学生だった頃は、ラジオやテレビの英語番組を視聴するか、あるいはレコードの教材を購入するしか方法がありませんでした。通学途中に、イヤホンでネイティブの発音に耳を慣らすことなどはできませんでした。そんな意味で現在の中高生は恵まれていると思います。

さて、もう一つ大きな変化だと思うのは、英語の書き取りで筆記体を教えなくなったことです。理由を調べてみたところ、ゆとり教育の普及の過程で、生徒への負担を考えて必修から外されたようです。2002年の中学校指導要領には「生徒の学習負担に配慮し、筆記体を指導することもできる」と、必須項目にしなくてもよいことが記載されています。今やパソコンで文書を作る時代だから、別に筆記体を覚えなくてもよいではないか、と賛同される方も多いと思います。

私が、私見を述べてみたいのは、この筆記体の功用についてです。

復習の鬼、では何度も復習を繰り返すことで、記憶が促進されると書きました。私は、英単語のスペリングを覚えるために、何度も何度も英(単)語をノートに書くという動作を繰り返しましたが、それはすべて筆記体で行ったのです。筆記体で書くスペリングは、一筆で書くので、指先でその動きを再現することができます。何度か指の動きでスペリングを覚えると、目をつぶっても指でスペリングをなぞることができるようになります。そうなると、視覚的にアルファベットを想起しなくても、指がその動きを覚えていて、空で書けるようになるのです。それ以降、英語のスペリングは、視覚的なイメージではなく、すべて指の動きで覚えてきました。現在でも英語の文を書いていて、スペリングが思い出せないときには、指先で空書きして確認しています。手の指だけでなく、足の指でもスペリングを空書きする癖がついてしまったために、無意識に動く私の足の指をみて、家族から「何しているの」と注意されたこともあるくらいです。

指の動きでスペリングを覚えるという方法は、私の個人的に有効な学習方法であるだけかもしれません。しかし、以下に述べるような理由で、英語の学習方法として再考してよいのではないかと思っています。

一つは、最近の記憶に関する研究によって、記憶には様々な種類があり、その中枢となる脳部位が異なっていることがわかってきていることです。指で覚えた記憶は「手続き記憶」と呼ばれるもので、視覚的な英単語の記憶とは別の脳部位が関係しています。熟練したピアニストが、譜面を見なくても長い曲を演奏できるのも、「手続き記憶」に従って指が動いているのです。視覚と聴覚だけでなく、指の動きという別の記憶部位を使ってスペリングを覚えるのです。別の記憶部位を使うために、視覚や聴覚の記憶部位の負担を少なくしている、といえるかもしれません。

もう一つの理由は、インターネット上で、私以外にも英単語は指で覚える、といっている方がほかにもいることを最近発見したことです。少なくとも私だけに有効なスペリングの記憶方法ではないことがわかり、こうしてブログに書いてみる気持ちになったのです。まだ、文科省に筆記体の功用を再考すべきだ、と進言する勇気まではありませんが、皆さんはどのように思われるでしょうか?

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筆者の英語ノート(高校一年時)

筆者プロフィール
report_sakakihara_youichi.jpg榊原 洋一 (CRN所長、お茶の水女子大学大学院教授)

医学博士。CRN所長、お茶の水女子大学大学院人間文化創成科学研究科教授。日本子ども学会理事長。専門は小児神経学、発達神経学特に注意欠陥多動性障害、アスペルガー症候群などの発達障害の臨床と脳科学。趣味は登山、音楽鑑賞、二男一女の父。

主な著書:「オムツをしたサル」(講談社)、「集中できない子どもたち」(小学館)、「多動性障害児」(講談社+α新書)、「アスペルガー症候群と学習障害」(講談社+α新書)、「ADHDの医学」(学研)、「はじめて出会う 育児の百科」(小学館)、「Dr.サカキハラのADHDの医学」(学研)、「子どもの脳の発達 臨界期・敏感期」(講談社+α新書)など。
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