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名誉所長ブログ

Koby's Note -Honorary Director's Blog

看護と私

看護師さんにお世話になったことのない人はいないであろう。大人も子どもも、病気や予防注射などで医療・保健の現場に行くと、お医者さんに会う前に必ず、看護を勉強した看護師さん、保健師さんなどのお世話になっているはずである。

それは、看護学の学問的発展と共に、看護師さんの果たすべき仕事が大きく進化し、戦後の看護が歴史的に大きな転換を迎えたからである。その大きな転換の時期に、私は東大小児科の教授と同時に、東大医学部付属看護学校長も兼任していた。

戦後のアメリカによる占領が終わって間もない当時、東大病院の付属看護学校はボケーショナル・スクール(職業訓練学校)と呼ばれており、高等学校を卒業した生徒たちが入学してきた。戦前は5年制の中等学校を卒業してからの入学だったことに比べれば、戦後の新しい3年間の中学校の義務教育に、3年間の高等学校の勉強をした上での入学だったので、教育期間が1年間延びたということになる。

これにより看護教育のレベルは、戦後ある程度高くなっていたが、私が校長を兼任するようになった頃、国立大学医学部付属の看護学校は次々と短大化して、更に教育レベルを上げていく流れとなった。しかし、東大は、1950年代に医学部保健学科(現:健康総合科学科)の中に大学レベルの看護教育を学ぶ部門がすでにでき上がっていたため、付属看護学校は短大化せずに続いたが、2002年に廃校となり、100年を越える歴史を閉じることとなった。

この新しい方針によって国立大学医学部付属の看護学校のほとんどが短大に移行した頃の話であるが、東京大学は当時の文部省から見れば国立大学の代表のようなものなので、東大の付属看護学校長であった私は、国立大学の付属看護学校の代表として短大化のお手伝いをした。当時、大学レベルの看護教育を行っていたのは、私立大学では聖路加病院の看護大学と、国立大学では東大と千葉大学看護学部の三校であったと記憶している。それらの大学の女性教授と一緒になって、日本全国あちこちの短大化された看護大学を視学委員として訪問した旅の思い出は少なくない。

短大化された看護教育による第一の影響は、当然のことながら、看護のレベルが上がったことである。アメリカでは、1960年代に看護学校の大学化が始まったが、私が医学教育の世界一周視察を行った1970年代には、大学化によって看護のレベルが向上すると言われていた。看護師さんを生んだイギリスも、看護のレベルを上げるために大学化を行うという話であった。 欧米では、大学化によって男性の看護師が増えたかどうかはよく知らないが、アメリカで軍隊の衛生兵が看護教育を受け、男性看護師として一般病院でも働いている姿は、アメリカでインターンをしていた1950年代に見たことを思い出す。わが国では、男性看護師の増加に、看護学校の短大・大学化が果たした役割は大きい。

先日、「医学界新聞」*1で、東大の医学部保健学科で学んで看護師になり、京大付属病院の看護部長をされている男性の看護師さんと、著述業も行っている女性の看護師さんとの対談を読んだ。男性の看護師さんは現在約63,000人(厚生労働省:平成24年度衛生行政報告例*2)で10年前の2倍以上であるが、それでも、全体で100万を越える看護師さんの中で、男性は6%を少し越す程度であると言う。男性看護師は手術室や精神科で働くのが代表的という時代は終わったようで、内科病棟やその他の病棟で働いている男性看護師も増え、男性看護師の知名度は高まってきていると認識されているようである。大きな問題は、女性患者の羞恥心を伴う看護を実施する場合、男性看護師の約70%は躊躇を感じ、約80%は拒否されたことがあるということである。したがって、男性看護師の80%は、女性患者の羞恥心を伴う看護を実施する際、患者自身や家族に「看護しても良いか」と事前確認をすると言う。看護も男女平等になることは悪いことではないと思うが、そこまでしなければならないかと考えると、少々淋しい思いがしないでもない。

*1. 週刊医学界新聞 第3052号(2013年11月18日)

*2. 平成24年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況

筆者プロフィール
kobayashi.jpg小林 登 (CRN名誉所長、東京大学名誉教授)

医学博士。CRN名誉所長、東京大学名誉教授。国立小児病院名誉院長。
日本医師会最高優秀功労賞(1984年11月)、毎日出版文化賞(1985年10月)、国際小児科学会賞(1986年7月)、勲二等瑞宝章(2001年秋)、武見記念賞(2003年12月)などを受賞。  

主な著作は、小児医学専門書以外には『ヒューマンサイエンス』(中山書店)、『子どもは未来である』(メディサイエンス社)、『育つ育てるふれあいの子育て』(風濤社)、『風韻怎思―子どものいのちを見つめて』(小学館)、『子ども学のまなざし』(明石書店)その他多数。
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