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名誉所長ブログ

Koby's Note -Honorary Director's Blog

新しい保育を体系づけるー保育の中の教育性とECECー

6月30日(日)、CRN主催による第1回ECEC研究会が、お茶の水女子大学で行われた。私も出席したが、幼保一元化などの現在の保育問題を考える良い機会となった。

最近の保育のあり方をみると、昔の保育とは大きく異なっていると感じる。私は医者であるので、身近な例として女性医師について話をしよう。

女性医師が結婚し、赤ちゃんが生まれると、まず問題になるのは保育園探しである。医師として仕事を続けるためには、赤ちゃんを預ける場所としての保育園が必須だからである。戦前であれば、医師の家庭は経済的に豊かで、生まれた我が子を世話する女中さんを雇い入れ、女中さんの住む部屋を用意することもできた。この頃、女中さんがいる家庭は少なくなかった。一方、1920年代に生まれた私が小学生の頃、今の保育園に当たるものは「託児所」と呼ばれていた。当時私は、この「託児所」を、生きていくために働かなくてはならない母親が仕事の間に子どもを預ける施設、つまり、社会的に恵まれない人々のための施設であると感じていた。

しかし、社会が発展し、豊かになるとともに、誰もが希望通りではないにしろ、学校に入り、勉強して、なりたい職業につくことが可能な社会になった。敗戦によるアメリカの占領政策の良い影響もあってか、日本政府は男女平等政策を進め、女性の社会参加が実現し、女性無しには社会が機能しなくなってきている。それに伴い、女性の働き方も多様化し、赤ちゃんを預ける時期や方法、産休・育休の取り方も人それぞれ異なるため、それに応えるべく、多様な保育制度が必要になっている。先進国のひとつとして、世界の経済もリードしているわが国の保育園は、女性の就業を可能にするだけでなく、男女が協同して社会を維持するための子育て支援システムとして考えなければならない時代になっている。このような子育て支援システムがなければ、現在の社会を機能させることができないのである。

さて、もともと「託児所」として始まった保育園であるが、その教育的側面について考えてみたい。何も知らないで生まれてきた赤ちゃんは、育っていく中で、食べることから排泄の仕方まで、生活に必要な心と体のプログラムを学びながら、発達する。それは、日々、生活を支援してくれる大人から教えられているのである。勿論、これらは、学校で知識中心に教える教育と同じではないが、広い意味で、「教育」の中に入ると言えるだろう。特に、乳幼児に対する教育は特殊で、学校に入ってから始まる教育の準備や、「しなければならないこと」「してよいこと」「してはいけないこと」などの「しつけ」も含めて、日常的に子どもの生活を支援する中で教えていく必要がある。私は今後、これを「保育教育学」として体系づけなければならないと考えている。

"ECEC"とは、"Early Childhood Education and Care"の略であるが、上述の私の考えを表現するのに適していると思った。私と同じような考えを持つ人が、外国でも主流になりつつあることは、大変うれしいことである。6月30日のECEC研究会を受けて、「保育」の中にある教育性を科学的に整理して新しい保育のあり方を体系づけることにより、現在問題になっている「幼保一元化」を、日本でも、なるべく早く実現して頂きたいと思った。

筆者プロフィール
kobayashi.jpg小林 登 (CRN名誉所長、東京大学名誉教授)

医学博士。CRN名誉所長、東京大学名誉教授。国立小児病院名誉院長。
日本医師会最高優秀功労賞(1984年11月)、毎日出版文化賞(1985年10月)、国際小児科学会賞(1986年7月)、勲二等瑞宝章(2001年秋)、武見記念賞(2003年12月)などを受賞。  

主な著作は、小児医学専門書以外には『ヒューマンサイエンス』(中山書店)、『子どもは未来である』(メディサイエンス社)、『育つ育てるふれあいの子育て』(風濤社)、『風韻怎思―子どものいのちを見つめて』(小学館)、『子ども学のまなざし』(明石書店)その他多数。
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