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Koby's Note -Honorary Director's Blog

「NHKと私」

3月22日は、NHKラジオ放送が始まった「放送記念日」である。今年は、初めてその式典にお招きを受けた。NHKとは長い間仕事をさせて頂いてきたので出席することにしたが、葉書で返事をすると、車まで用意してくださるというので驚いた。どうやら全ては、現在私が「子どもに良い放送」という調査研究プロジェクトをお手伝いさせて頂いている、NHK放送文化研究所のアレンジによるものであったらしい。私はかつてNHK交響楽団の会員として、演奏を聴きによくNHKホールを訪れていた。この度そのホールで行われた式典は、NHK交響楽団の演奏から始まる、大変立派なものであった。

NHKがラジオ放送を始めたのは1925年3月22日である。私の生まれる2年前のことだが、「JOAK」のコールサイン*1で始まったという。私の頭に残っているNHK放送の最も古い記憶は、ベルリンオリンピックの水泳の実況放送である。「前畑がんばれ、前畑がんばれ」と言うアナウンサーの声を、一緒に聴いた父のことと共に思い出す。戦争中の放送のこともいろいろと思い出すが、末期は海軍の学校にいたので、放送を聴くことはなかった。そして、教室で聴いた8月15日の玉音放送と共に戦争が終わり、戦後が始まった。

戦後、日本はあっという間に放送天国になってしまった。その始まりは1951年の民間のラジオ放送であり、1953年にはテレビ放送が始まったと記憶している。民間のラジオ放送が始まってわずか数年後のことである。私は当時大学生であったが、電気屋さんの店頭に並ぶテレビの映像を見るために群がった人々の姿が、今も目に浮かぶ。

「テレビやラジオの放送に出演したことがあるか」と問われれば、"Yes"である。母校の東京大学の教授になって7、8年経過した1970年代後半のこと、NHKのスタッフから、「お母さん方を対象とした朝の番組にレギュラーとして出演し、子育ての話をしてほしい」という申し出があった。番組は「こんにちは奥さん」というタイトルであったと思う。今のように大学教授がテレビに出演することのなかった時代なので、医学部の事務局に相談したところ、事務局長始め事務局の人は皆、「社会教育として大きな意義があるので、ぜひ出演して頑張ってほしい」と言ってくださり、安心して、この申し出を受けることにした。

週一回、朝7時前にNHKからハイヤーが迎えにきて、8時頃にスタジオに入り、簡単な打ち合わせをして、お母さん方と一緒に本番を迎えた。アナウンサーは誰でも知っている、とても有名な方であった。しかし、開始から数ヶ月後に政界が動き、総選挙に入って、この放送は中断してしまった。残念というより、安心したという感じが強かった。

テレビに出るということは顔まで覚えられるということであって、東京は勿論のこと、北海道や山形、鳥取、福岡に至る日本全国で、また、鉄道のホームや空港のロビー、小さな町のレストランや寿司屋さんで、「朝のNHKのテレビに出ている小林先生ですね」と声をかけられるようになったのである。テレビは日本の津々浦々で見ることができるので、当然のことであろう。

ラジオ放送となるとテレビとは大分異なる。テレビ放送に出演してから数年たって、NHKからラジオ放送にも出演を依頼された。教育問題について話したと記憶している。深夜放送であったが、それでも日本のどこかで聴いている人がいて、NHKに直接手紙が寄せられてきた。いずれも真面目なご意見で、大変勉強になった。

赤ちゃん研究や子育て問題などの特別番組のお手伝いをさせて頂いたことも、忘れることができない。NHKは、いつも"best"を目指すので、ハーバード大学の育児学のBrazelton教授を招いて番組を作ってくださったことは、今も良い思い出として心に残っている。それは、アーカイブに保存されていて、いろいろな教育に利用されているという。

今年はじめて放送記念日の式典に出席させて頂き、芸能人や多くの有名人の顔を見て、今更ながら、NHKとはご縁の深かったその昔を思い出した。


*1 コールサイン(呼び出し符号)とは、無線局の識別ができるようにするための符号のことで、電波を出している放送局に割り当てられている。大正14年の開局時に「JOAK」がNHK東京放送局のコールサインとなった。
筆者プロフィール
kobayashi.jpg小林 登 (CRN名誉所長、東京大学名誉教授)

医学博士。CRN名誉所長、東京大学名誉教授。国立小児病院名誉院長。
日本医師会最高優秀功労賞(1984年11月)、毎日出版文化賞(1985年10月)、国際小児科学会賞(1986年7月)、勲二等瑞宝章(2001年秋)、武見記念賞(2003年12月)などを受賞。  

主な著作は、小児医学専門書以外には『ヒューマンサイエンス』(中山書店)、『子どもは未来である』(メディサイエンス社)、『育つ育てるふれあいの子育て』(風濤社)、『風韻怎思―子どものいのちを見つめて』(小学館)、『子ども学のまなざし』(明石書店)その他多数。
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