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Koby's Note -Honorary Director's Blog

食育はいつ始まるか、いつ始めるべきか

「食育」という言葉が、世の中を走り始める前、「食習慣はどのようにして出来るのだろうか?」といろいろと考えたことがある。それは、1970年代の中頃だったと思うが、ランセット誌に発表された、母乳哺育の論文を読んで、その発想に驚いたからである。

その論文は、母乳哺育の始めから、すなわち赤ちゃんが母乳を飲み始めた時点からの経過にともなって、分泌する母乳の成分を分析してみると、いろいろと変化が起こっていると言うのである。つまり、母乳中の脂肪成分の濃度は上がり、pHも上昇する、しかし、たんぱく成分にはあまり変化がないのである。これは、母乳の味(風味)が変化することを意味する。簡単に言えば、母乳の味はクリーミーになり、酸味は弱くなるのである。

この報告者は、この味の変化が、赤ちゃんに食事の始めと終わりを教え、食欲のコントロールに役立っているという。確かに、ミルクでは始めから終わりまで味は単一であり、始めも終わりもない。だから赤ちゃんはミルクを飲み続け、太り気味になってしまうのである。大学で小児科の助手をやっていた1960年代は、ある意味でミルク全盛時代であり、ミルク会社のスポンサーで行われた「赤ちゃんコンクール」の優勝児は丸々太った赤ちゃんであった。今で言えば、肥満児コンクールだったと言える。

ところが、11月の「母子保健」(母子衛生研究会発行)によると、食育の始まりはもっと早いというのである。微量ではあるが、母親の食事成分が羊水中に出ていて、それを飲むことで胎児は味を学んでいるというのである。確かに、味を学ぶには、味覚以外に方法はない。しかも、味のセンサーである舌の味蕾は、妊娠100日の胎児ではちゃんと出来上がっているのである。したがって、食育は胎児期から始まっていると言える。

一寸考えても、食文化は色々とある。わが国のような味噌・醤油文化ばかりでなく、インドのカリー文化、韓国の辛子文化などなど。したがって、それぞれの文化の中で、人間は生きていくために、それぞれの食文化の味のエッセンスを、胎児の時から学ぶ必要があるのかも知れない。

大切なことは、子ども達の食育に対するお母さんの責任として、おいしい料理を作り、テーブルを囲んで楽しく食事をする事は、勿論大切であるが、それだけではない。妊娠とわかったら、生まれて来るわが子のために、健康な生活をするばかりでなく、食生活も豊かにして、食文化の基本もおなかの赤ちゃんに教える必要があると言えるのである。特に、日本の食文化がいろいろと世界的に評価されている現在、その伝承のためにも、これは重要である。

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